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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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宇宙、章との未来を考える

 章はイングラム城で、ルウシィと仲良く遊び、アレックと妻のジャネットの農園を手伝ったりした。エルも華も優しく、我が子のようにかわいがってくれるので居心地がよかった。ルウシィの打ち明け話で、彼女に日本人の転校生の彼氏ができたことを知る。ルウシィの母の華が、美貴の娘ということもあり、彼女の四分の一は日本人だったから、彼女は日本人に対して好意的だった。そして章の父の博樹のことも小さいころから好きなおじさんだった。

 宇宙にとって、ゆめは憧れの存在で、良心の象徴だった。子どものころはゆめに話せなかったことはなかった。仕事の忙しさで気を紛らわせていたが、三日過ぎても胸のモヤモヤが消えず、仕事を終えて自宅マンションに帰ってきたときに、一階の宝石店が開いていて、そのまえを通りすぎてから急に思いだした。

「そうだ。いつだったかな……章が小学生のころだったと思うけれど。お花の指輪がほしいと言っていたな」と心の内で呟いて、宇宙は踵を返すと、宝石店に入っていって指輪を注文する。

 急いでもらっても三日はかかると言われる。そのあいだに、いま引き受けている仕事を片づけて、一週間は休みたいと思う。宝石店の女性に指輪のサイズを聞かれ、ゆめに電話をする。

「あの、宇宙です。唐突なんですけど、指輪のサイズを教えてもらえませんか。あの章と同じサイズだと思って……理由……僕が章にプレゼントしたいんです。そうです。父さんから聞いてくれたんですね。章と仲直りしたくて。イギリスから帰ってきたら、行きます」

 電話を切って、サイズを店員の女性に告げて、カードで支払うと、ほっとして帰宅する。

 翌日から精力的に仕事をこなして、三日後の夕方には指輪を受け取り、翌朝の便でイギリスへ飛ぶ。タクシーでイングラム城へ車中から華に電話する。

「華、いま車でそちらへ向かっているんだ。章はどうしている。ゆめから聞いてもらったんだね。よかった。アレックと一緒に農園にいるんだね。いや、言わなくていいよ。僕が行くことを知ったら、どこかへ行ってしまいそうだから。もうすぐ着くよ」とイングラム城に着くと、華に荷物を預けて農園へ行くと、りんごの木に梯子をかけて、ひとつひとつ鋏で切り取っている。肩からかけている袋に入れていく。楽しそうにしている姿を見て、かわいいと思い、顔が綻ぶ。梯子を降りてこようとするが、りんごの袋が邪魔をして降りにくそうである。もう少しのところでバランスを崩して、落ちそうになると、宇宙は慌てて梯子を押さえて、章の体を支える。

 はじめ章はだれが支えてくれたのかわからなかったので「ありがとう」とお礼を言って顔を見ると、「宇宙、どうしてあなたがいるの」と、戸惑っている。

「章と仲直りしたくて、僕の話を聞いてくれる」と章の顔を見つめる。

「うん」と素直にうなずく。

 二人はりんごの木の下の丸太に座って話しはじめる。

「僕は章がいないと淋しかった。君とのことを考えてみたんだ。いますぐに答えは出せないけれど、章が大学を卒業したときに、まだ僕のことを思ってくれていたら、婚約しよう。そして翌日に結婚しよう。その約束にこの指輪を受け取ってもらえる」とお花の指輪を差しだす。指輪を見るなり章の頬が火照る。

 指輪をはめてもらうと「宇宙うれしい。ありがとう」と彼に飛びついてうれし涙が目に溜まる。

「章、約束してほしいことがあるんだ。大学は卒業すること、決して無理はしないこと、四年間で違う道を考えたら迷ってはいけない。自分の幸せを諦めないでほしい。約束してくれる」と聞くと、「うん、約束する。宇宙大好きよ」と大きな目から涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 その様子を見ていたアレックとエドガーが「宇宙伯父さん、いい眺めだよ」とうれしそうに揶揄う。

「僕の彼女を紹介するよ。章・山本嬢です」と二人の甥に真面目に紹介する。

「伯父さん、章、おめでとう」「おめでとう。お似合いだよ」と甥っ子たちに祝福される。

「伯父さんがいままで女の子に興味を示さなかったのは、章が大人になるのを待っていたのかもしれない。それも自分では気がつかない自然なこととしてね」とアレックが言うのを聞いて、章はもう一度宇宙にしがみつく。

 宇宙は章に優しく口づけをする。木から降りてきた甥っ子たちは笑顔で拍手して二人を祝った。宇宙はアレックの言葉に「僕が待っていたのは僕自身が大人になることだったんだ。しかし章が生まれたときから、ずっと見つづけてきたことも本当だ。章が覚えていない小さいころの彼女も知っている。章を守っていくことが、僕の使命かもしれない」と考えてかたわらに寄り添う章を見ると、とろけるような笑顔で宇宙を見つめている。

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