我が子の誕生
夏になると、ゆめのお腹が目立ってきた。小柄なゆめはよけいにお腹が大きく見えるので、博樹は心配していた。たえず彼女のことが気になり、仕事が手につかなかった。見かねたジィムがしばらく仕事を休んでゆめにつき添っていてはどうかと提案したので、仕事の虫の博樹もゆめの病院へは必ずつき添い、お散歩も敷地内を一緒に歩いた。
秋になって涼しくなると食欲が出てくるが、今度は体重の増加を抑えなければならないので、シェフが食事を気にかけてくれた。エリザベスが「私のときも美味しくて体にいい食事を用意してもらいましたのよ。ブライス家のシェフは本当に栄養やお料理のことをよく知っているのね」と感心していた。寒くなると皆はゆめが風邪をひかないように気をつけた。ゆめ自身も体を労って暖かく過ごした。
ゆめが眠ったあと、博樹はゆめのお腹に話かけるようになった。
「赤ちゃん聞こえるかい。僕は君のお父さんの博樹だよ。僕もお母さんのゆめも、君が生まれてくることを楽しみにしているよ。安心して生まれておいで」
「僕は君がゆめに似ているといいなと思っているんだ。君のお母さんはきれいで優しくて働きものだよ。そうだ一つぐらいは僕に似ていてくれるとうれしいかな」
「僕は画家なんだよ。だから君が生まれたら、たくさん君を描こうと持っているけれどいいかな」
「もうすぐ会えるね。待っているよ」
毎晩、話しかけるのが楽しみになっていた。
産み月に入り、まだまだ寒い日にかわいい女の子が生まれた。
博樹は我が子を見て「なんてかわいいんだ。ゆめに似ている。よかった」と思った。
ゆめに優しく「お疲れ様。ありがとう」と手を握る。「ゆめ、君に似ていて美人だよ。本当にかわいいね」とうれしくてたまらない様子である。
ブライス家の人々もスチュアート家の人々も喜んで新しい家族を迎えいれた。
女の子は章子の章で〝あき〟と読む名前にした。章は人懐っこくて皆にかわいがられた。ゆめによく似ているが髪は黒くて博樹譲りの直毛である。ゆめは子どもを諦めていたから、高齢出産ということを心配したが無事に生まれてきてくれたと感謝の日々だった。
ゆめの心配をよそにまわりから見ると三十代の母親にしか見えない。そして博樹も若く見えるとはいえ、五十代半ばぐらいで、年の離れた夫婦にしか見えなかった。
同じ年に華が女の子を出産してルウシィと名づけた。ジィムと美貴は、華の出産が近づくとイギリスへ行き、出産後も一カ月近く留まっていた。
ゆめは母乳で章を育てていた。博樹は授乳しているゆめや、抱いて子守唄を歌っているゆめを描いている。成長していく章を描きつづけていく。お座りができた。ハイハイをしている。掴まり立ちができる。ひとり歩きをするなどを描いている。そして「カーシャン」と言われて、ゆめは泣いて喜んだ。その後「トニ、ジェニ、ジュニ、エリ、エミ」と順に覚えて呼んだが、なぜか父親の博樹には笑顔で甘えるが「トーシャン」と呼ばれなくて、彼はへこんでいた。




