表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめの時間  作者: 秋山章子
52/66

子供たちの成長

 大きくなるにつれて、宇宙はスポーツに夢中になった。サッカー、野球、そして高校ではバスケットの選手で活躍した。父親のジィムも高校と大学でバスケットの選手として活躍していた。選手のなかでも宇宙は背も高く整った顔立ちで、女子に人気があった。女の子の友達も多かったが、練習が忙しいという理由で彼女はいなかった。大学はニューヨークの大学で、ブライス家から通った。

 いまではジュニアがトニーと一緒に会社を経営していた。彼は父親に似て優秀な企業家だった。そして優しい青年に育っていた。イングラム家でもフィリップが大学を卒業して、友人とIT企業を立ち上げていた。農園の経営はエルとケントで行っていて、ブライス家との取引がつづいていた。エリザベスは若いころの母親によく似ていて、イギリス中の貴族の若者から、またはその両親から結婚の申しこみが寄せられていたが、彼女はどの縁談も嫌がった。兄のフィリップだけが、そのわけを知っていた。エリザベスは幼馴染の宇宙が好きだった。彼の花嫁になれるのなら、アメリカに住むことも厭わないと思っていた。兄のフィリップのほうも華が好きだった。そして携帯で連絡していて、お互いの気持ちを確かめあっていた。二人のあいだでは、華が高校を卒業したら結婚しようと考えていた。フィリップも彼の母親のエルと同じで、古い慣習など気にかけなかった。

 その二年後、華の恋校の卒業式に両親のジィムと美貴と一緒に花束を抱えたフィリップが出席していた。校庭に出てきた華に花を送り、そのまま四人は車で教会へ向かい、双方の両親、兄妹と親しい人たちに祝福されて、挙式は滞ることなく無事に終え、ヨーロッパのハネムーンに出発した。華がお城で暮らしだしてから、エルはフィリップの嫁が華でよかったと思った。華はどことなく、ゆめに似ていると思えた。優しく家庭的であり、特にお料理が上手で、週に何度かは家族のために腕を振るった。華は「ゆめに教えてもらったの。ゆめは私の理想の女性なのよ。もちろんママのように働く女性も魅力的だけど、私には到底なれないわ」と笑って言うのだった。

 久しぶりに宇宙に会ったエリザベスはうれしく思い、彼に「宇宙、私も幸せになりたいわ」と言ってみたが、「エリザベスなら幸せになれるよ。君と結婚したいと思う男性は多いだろうから。君が一番好きな人を選べばいいんだよ」と微笑んでいる。エリザベスはその笑顔が好きだが、いまは心のなかで「宇宙、笑ってないで私にプロポーズして」と祈るように彼の顔を見つめる。しかし宇宙はゆめを見つけて、ゆめの博樹のそばに走っていった。三人で楽しそうに話しながら、食事の用意された教会に併設された食堂へ行くのにエリザベスを手招きする。彼女は悲しそうな顔をむりに笑おうとしている。ジュニアが横に来て、「エリザベス、僕でよかったらなんでも相談に乗るよ。それから、こうすると……」と自分の口の両端を指で上げて戯けてみせる。その滑稽さにエリザベスがクスッと笑うと、「君は笑顔が一番素敵だよ」と真面目に伝える。

 これまでと変わらず、トニーを中心にゆめたちがいて、かつて彼女たちが悲喜交々感じていた場所に若い人たちが活きいきと暮らしていた。ゆめは人生の先輩として彼らを愛した。少しずつ年をとっているが、やはりゆめは三十代後半にしか見えないので、博樹との関係がわからないと思う人が多く、妻だと伝えると若い奥様ですね、と博樹に羨ましそうに言うのだった。博樹は訂正することもなく笑っていた。ゆめがわけを尋ねると「外見がどうであれ、ゆめはゆめなんだから。僕はありのままの君が好きだから、ゆめは気に病むことはないんだよ」とハグしてくれる。

 フィルと華の結婚から二年後に、ジュニアとエリザベスが結婚した。ジュニアがエリザベスを慰めたことから付きあいがはじまり、友情が愛情に変わって、エリザベスはアメリカで暮らす決心にいたった。宇宙は二人を祝福した。彼自身、大学を卒業してニューヨークで仲間と弁護士事務所を設立したのは、トニーの援助が大きかったのは言うまでもない。彼は卒業と同時にブライス邸を出て、トニーの経営するマンションに移った。独立したいのと、ジュニアとエリザベスに遠慮したということもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ