懐かしの西海岸へ
宇宙が五才になったとき、ジィムと美貴が子どもたちをアメリカで育てたいと博樹とゆめに相談してきた。
博樹はゆめ次第だと思ったので、「ゆめ、君はどうしたい。僕はどこにいても仕事ができるから、君の気持ちを尊重したい」とゆめを見つめる。
「もちろん六人一緒よ。家族ですもの」と明るく言うので、「ゆめ、ありがとう。本当のことを言うと、一人で二人の子どもを育てるのはちょっと自信がなかったの。でもね宇宙も華も国際的な感覚を持った人に育ってほしいの。ジィムのようにね」と美貴はジィムを見て微笑む。ジィムも力強く頷く。
「私のほうこそ、お礼を言いたいの。宇宙と華は私とヒロの子どもでもあると、私が勝手に思っているのよ」と居間の絨毯のうえで遊んでいる宇宙と華を見ていた。
「サンフランシスコに帰るのでいいかな」とジィムが聞くと「ええ、我が家に帰りましょう」とゆめがうれしそうに答えて、博樹の手を握る。
すぐに動きだすのが彼のよいところだった。
博樹はトニーに連絡して、西海岸の家の様子を確認してもらうことを頼み、ゆめは母ナンシーと娘の里子にお別れの挨拶に行った。母は泣きたいのを堪えて、「あなたたちにはそれが一番よいと思いますよ。ゆめ、いまだけ私の章子に戻ってね」と娘を抱きしめる。「ママ……」章子に戻って、母の頬にキスをする。そして里子を抱きしめて、我が子の幸せを祈る。母のナンシーは孫娘の里子とその夫の賢太郎と男女のひ孫に囲まれて幸せに暮らしている。ゆめは安心してアメリカに帰れると思った。そしてナンシーは七年後に神のもとへと旅立ったが、ゆめは博樹に支えられて、悲しみを乗り越えることができた。七年のあいだにはメルも去っていき、ゆめは淋しく思うのだった。
ジィムは美貴が育児で忙しいので、一人で出国のための手続きや仕事の調整を成し遂げ、一カ月後には懐かしい西海岸の家へ帰ってこれた。
宇宙と華はいままでより広い家のなかを走りまわって喜んだ。予備の部屋が子どもたちの遊び部屋となり、雨の日も退屈しなかった。ゆめはせっせと子ども服を縫って、二人に着せた。それを美貴は大いに喜んで、ゆめに感謝していた。
ゆめは博樹にピアノを購入してもらい、二人にピアノと歌を教えた。宇宙には簡単な文字と計算を遊びのなかに取り入れて教えた。家のなかのいたるところに、そのものの名前を書いた紙が貼られていた。ゆめが書いて読み上げてから宇宙に渡すと、宇宙も紙片を見ながら、ゆめが言ったとおり口移しに言いながら、自分がわかるものなら大急ぎでそのものに貼りつけにいく。それはセロテープで貼られていた。わからないときは、ゆめのジェスチャーで考えて、わかるまで何度もジェスチャーをせがむのだった。本も二人に読み聞かせた。宇宙が小学校に行きはじめると、華は幼稚園へ通いだした。ゆめは、二人が成長したことはうれしかったが、自分の手を離れたことが淋しくもあった。そのぶん二人の好きな食事に力を入れた。華は家庭的な性格で、ゆめのお手伝いが好きだった。
朝、美貴が二人を車で小学校へ送っていく。幼稚園の施設も学校に併設されていた。二人とも、友達ができて楽しい日々を過ごせた。




