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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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章子の抱える秘密

 翌日、章子の絵を仕上げて満足していた。あとは五人でお茶を楽しんだ。

「里子ちゃんは学校ですか」と美貴が聞く。

「ええっ」とナンシーが答える。

「章子ちゃんは服飾関係の学校ですか」と博樹が章子に尋ねる。

「二年行って卒業しました。楽しかったわ、若い人たちといると自分も若返って考えかたも柔軟になるのよね」

 三人の頭にクエッションマークが浮かぶ。

「あの……章子さんはおいくつなんですか? ああ、女性にお歳を聞いてごめんなさい。よければなんです」

 ジィムが聞いたあとに慌てていた。

 章子が困ったように母のナンシーを見る。

「山本さんたち、とてもいいかたたちだから、お話ししてもいいかもしれませんね。いまからお話しすることは信じられないかもしれませんが、本当のことなんです」

 三人は固唾をのんで、ナンシーの言葉を待った。

「章子、幾つに見えます」

 ナンシーが三人に聞いてくる。

「あの十六歳か十七歳ぐらいだと思っていたのですが」

 博樹が答える。

「私、四十三歳なんです」

 衝撃で言葉も出ない。

「いま考えると章子の父親の政之まさゆきさんが亡くなった年で成長が止まっているみたいなんです。ショックが大きかったのでしょうね」

「あの、病院へは……」

 ジィムが尋ねる。

「小さいころから行っている近くの病院で診てもらったのですが、わからないと言われて、それからはどこへも行っていません」

 悲しそうな顔でナンシーが言いながら、章子を引き寄せて抱きしめる。

 美貴が遠慮がちに「里子ちゃんもですか?」と尋ねる。

「あの子は十九歳です」とナンシー。

 またまた、三人の頭にクエッションマークが。年齢の計算が合わない。

 章子がニコッとして、

「私の娘です」

 なるほどと三人は納得する。

「ご主人は……」

 と聞きにくそうに博樹が聞く。

「離婚しました」

 と意外にさばさばとした声で章子が答える。

 なぜだか博樹の心のうちで、安堵した自分がいた。

 のちに知ったことだが、章子の夫は大学時代の恋人で、卒業と同時に結婚したが、章子の家庭はアメリカそのものであって馴染めなかったので、わずか一年で離婚していた。

 父は日本人の祖父とアメリカ人の祖母がアメリカンスクールの教師同士で結婚して生まれた一人子であった。母はアメリカとフランスのハーフのアメリカ人で、祖父がアメリカの仕事でフランスに行ったときに、フランス人の祖母と結婚して生まれ、その後神戸にやって来て長らく住んでいた。両親もアメリカンスクールのクラスメートで、大学卒業後に結婚していた。

「あの章子さんの身体のことなんですが、トニーの主治医のスミス先生が力になってくれると思うので、一度、診てもらってはいかがですか」

 と博樹が聞いてくる。

「ありがとうございます。でも私たちがブライス家の主治医の先生に診てもらうなんて……」

 とナンシーは口籠る。

「あの、こんなこと言って怒らないでくださいね。費用はすべてこちらで持ちます。知りあってモデルになってもらったというのも、なにかの縁だと思うのです。ぜひ一緒にアメリカに行ってください」

 博樹の真剣な態度にナンシーはうなずきながら「少し考えさせてください」と答える。

「僕たち、土曜日にアメリカへ帰る予定にしていたのですが、それでも章子さんに合わせますので、できればなるべく早くお返事をいただきたいんです。パスポートとかいろいろ準備があると思うので」

「パスポートはあります。私の両親が健在なときに実家へ帰ったりしていましたから」

「それでは出国の申請をすればいいだけですね」

 ナンシーが「ええ……」とうなずく。

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