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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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新居での生活のスタート

 桜の花が咲き誇るころに京都の家に着いた。

「きれい」とゆめはにわの桜が花びらを散らしているのを眺めて喜んだ。それを見て、博樹はほっとした。同じ日本に、それも同じ関西圏にいるのなら、母のナンシーとも娘の里子とも会う機会が多くなるのも、ゆめにとってうれしいことだから。博樹は車を二台購入した。一台はスチュアート夫妻のために、もう一台は自分とゆめのために。そして時間のあるときはゆめを乗せてナンシーのもとへ送っていき、妻の喜ぶ姿を見るのがうれしかった。

 家の近くのホテルに泊まり、まず家具を買って家で寝れるようにして、アメリカから送った荷物を片づけ、細々したものを楽しみながら買った。生活が軌道に乗ると、アメリカにいるときと同じように落ち着いた暮らしが戻ってきた。

 博樹は神社、仏閣、街並みを描いて、そのなかにゆめを入れるのだが、小さかったり、うしろ姿だったりで、決して顔がわかるようには描かなかった。ゆめ自身の絵はスケッチブックに描き溜めていた。のちにアメリカへ戻ったときに精力的に油絵にしていた。裸婦もこのときに描いて、ゆめに贈った。ゆめは自室のクローゼットのなかに飾り、一人で眺めて楽しんだ。

 仕事部屋と二夫婦の部屋と台所と居間、それにトイレとお風呂という造りだった。ゆめの実家と同じで外見は日本家屋だが、なかは靴を脱いであがるほかは、アメリカ的だった。アメリカの家と比べると狭いが、ゆめはいつも博樹を身近に感じられ、心安らいでいた。トイレは男性用女性用と二つあるので問題なかったが、お風呂が一つなので、順番は交替に入ることにした。

 はじめの日は山本家が入ることになり、ゆめと博樹が一緒に入っているので、美貴が「あの二人、一緒に入っているわ。ゆめが二人で入りたいなんて思わないでしょうから、ヒロよね。ヒロって意外に男なのね」と苦笑いしている。

「そりゃあそうだよ。それにね、彼は芸術家として、ゆめの裸体を見ていたいんだよ。昔、バスタブでゆめが寝てしまったことがあっただろう」

「そういえば、そんなこともあったわね」

「あのとき、ヒロはずっと見ていたいと言ってね。僕は焦ったよ」

「ヒロって本当にゆめと絵を描くのが好きなのね。ゆめがそれでいいなら、問題ないわね」と好意的だった。

 その後、スチュアート夫妻も時間短縮のために一緒に入るようになった。

 庭は広いので、木々や草花が咲くから、それもゆめは大喜びしていた。洗濯物も庭に干すので、雨が降りそうなときは、いつも干し物を気にしながら、ほかの用事をしなければいけないが、それも慣れるとうまくやれた。

 ゆめは近所の人とも親しくなった。両隣は老夫婦の家と中年夫婦に子ども二人の家族。向かいには同じくらいの年格好の夫婦と新婚のとても若い夫婦たちが暮らしていた。朝のゴミ出しのときに買い物に誘われて出かけたりした。それはゆめが日本語を話せて、日本人のそれも画家として有名な山本博樹の妻ということも大きかった。美貴と二人、お茶にお呼ばれしたり、反対にティーパーティに四人の妻たちを招待したりと、ゆめと美貴は日本での生活を存分に楽しんだ。

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