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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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失礼な店員

 夕方になると四人でお散歩を楽しみ、土曜日は車でお買い物に出かけていく。

 ゆめは食材を見てまわって、安くて鮮度のよいものを選んで購入する。それを博樹が持ってついて歩いている。馴染みのお店ばかりなので、どの店の人も仲のよいご夫婦だと愛想がよい。

 美貴が「ワンピースがほしいから見てくるね」とジィムと洋品店を見てまわっていて、ジィムが整髪ジェルを買いに雑貨店へ入り、美貴は一軒の店のウィンドウに飾ってあったのが気に入り、入っていって見せてもらうように言うが、店員の女性が知らん振りをして答えないので、美貴は嫌な気持ちになって店を出ようとしたところにジィムが入ってきた。

「美貴、どうかしたの」と聞く。

「ここの店員さんはなにを言っても答えないから出ようと思って」と答える。

「えっ、この店は接客しないのかい。そこの君、英語がわかるかな」と店員に話しかけると、「あっ……すみません。アジアの人ははじめてだったから、ちょっと恐いし関わりあいになりたくないというか」と悪びれた様子もなく言う。

「君、店長を呼びたまえ」とジィムが怒った声で言う。

「えっ、店長ですか」と店員の女性は困った顔をする。

 そこへ奥から「なにかあったの。あっ、お客様、どうかなさいましたか」と四十代ぐらいの女性が出てきて、にこやかに話しかけてくる。

「あなたは」とジィムが聞くと、「この店の主人です」と答えたので「僕の妻がおたくの店員の人に話しかけても返事どころか無視をしたのです。こちらのお店は人を差別するのですか」と少し冷静になって聞く。

「とんでもありません。本当に申しわけありませんでした。あなたも謝って」と店員に促す。

「ジィム、もういいわよ。謝ってもらったし、行きましょう」と美貴がジィムの腕を引っ張る。「そうだね行こうか」と二人が出ようとすると、店主が「お待ちください。奥様にぜひうちの洋服を着ていただきたいのですが、よろしければ試着なってください」と言ってくるので「美貴どうする」とジィム。「そうね、ウィンドウに飾ってあるワンピースを試着してみようかしら」と機嫌よく言ってみる。そのワンピースはスタイルのよい美貴によく似合っていたので、ジィムは購入することにした。

 ワンピースを袋に入れてもらっているときに、ゆめと博樹が店に入ってきた。

「美貴ちゃん、ワンピースどうだった」とゆめが美貴に尋ねる。

「ええ、ジィムに買ってもらったの」とうれしそうなので「よかったわね」とゆめもにこにこ顔になる。

 店主の女性がゆめを見て、なんて美しいお嬢さんなんだろうと思い「よければそちら様も見るだけでもどうぞ見てください」と勧める。

「ゆめも気に入った服があれば買ってあげるよ」と博樹が言ってくれるので、ゆめもひと通り見てまわるが、「素敵なお洋服ばかりだけれど、私にはサイズが大きすぎるわ」と残念そうに言うのを聞いて、ぜひにもゆめに着てもらいたくて、それに一緒にいる東洋の男性がとても素敵に見えるので「サイズのお直しはいたしますから」と店主が再度勧める。チェック柄のワンピースを試着するが、子どもが大人の服を着ているみたいで、直しようがないと思われた。

「まあ、とてもスレンダーなモデル体型ですね」とにこやかに笑いながら言われる。そして、着ていたワンピースが夢の足もとにあったので、取り上げてハンガーにかけるとき、タグを見てびっくりする。よく見ると、帽子もポシェットも靴もブランド物ばかりだった。

「お客様は、このワンピースを購入するのにフランスまで行かれたのですか」と聞かれ、「どうしてですか」と反対に尋ねる。「ダニエルの服はアメリカでは売っていませんから」と博樹とゆめのことをよっぽどのお金持ちだと思ったようだった。

「ダニエルが送ってくれるから」と答えると、「えっ、ダニエルとお知りあいなのですか」とびっくりしていた。

「私というより、もともと父の知りあいなの」と本当のことを言うと「そうなのですか。お父様とお知りあいなのですか」と言ってから「私にダニエルを紹介していただけませんでしょうか」と頼んでくる。

「それはダニエルと商売の取引がしたいということですか」とジィムが尋ねる。

「ええ、そうです。アメリカでダニエルの服を販売できればまちがいなく大当たりしますわ」

「それは難しいでしょうね。ダニエルに聞くまえに、トニー・ブライスの考えを聞かないといけないでしょうから」とジィムは大真面目な顔になる。

「トニー・ブライス」と店主は怪訝な顔をするが、はっとしてゆめを見る。

「お父様がトニー・ブライスなんですね」と納得する。とてもトニー・ブライスを相手にはできないと断念した。

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