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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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ハネムーン

 ハワイへ着くと、到着ロビーのカウンターに行くようにトニーに言われていたので、行ってみると、封筒を渡され、なかには車の鍵が入っていた。地上勤務の女性が車のところまで案内してくれた。

「ヒロ、この車に乗るの」

「そうみたいだね。さあ、ゆめ乗ってください」と助手席のドアを開けてくれ、ゆめが乗ると、自分は運転席に座ってエンジンをかける。

 ホテルまでのドライブ中に「ヒロ、運転できるのね。私ずっとヒロはできないと思っていたの。いつもジィムか美貴ちゃんが運転していたから。どうしてしなかったの」と不思議そうに聞く。

「そうだね、なぜかな。僕が運転する必要性がなかったからかな」

「あの……まえに運転したのはいつなの」

 ゆめの不安そうな顔を見て、「大丈夫だよ。婚約してから何回か運転しておいたから。ゆめを乗せるのに危ない運転はしないよ」

「ごめんなさい。ヒロを信用しないわけではないけれど。とても恐がりというか、心配性なのね。ヒロ、私が知らないこと、まだいっぱいある」

「君に隠していることはないよ。忘れていることがあったらごめん」とはじめに謝っておく。

 ゆめは博樹の忘れていることは全部許せると思った。

 一日中、車で見て、食べて、ソフトドリンクを飲んで、子どものようにはしゃぎまわったので、夕方ホテルにチェックインしたときは二人ともくたびれていた。

 トニーの経営しているホテルなので、最上階のスイートルームに案内された。そこへ支配人も挨拶に現れ、ゆめを見るなり「エミリィー様」と呼んで、慌てて「お祖母様によく似ていらっしゃる」と言いわけをしている。「よく似ていると言われるけれど、私はお会いしたことがないの」と残念そうな顔で答える。

 食事も部屋で済ませて、明日は日本へ移動するので、日本のどこへ行きたいかを話しあっていた。

「まず、ヒロのお母さんにお会いして、それから父のお墓参りをして、あとはどこへ行く」

「京都に行きたいんだけれどいいかな」

「もちろんよ。京都は大好きだからうれしいわ」

 京都は博樹とはじめて会った場所なので、博樹と一緒に行けるのはうれしかった。

「ゆめ、お風呂に入って寝ようか」となにげなく言われて、「そうね」と答えたものの「ヒロがさきに入るのよね」と思っていると、ゆめを抱き上げるとバスルームまで運ばれ、ゆめのワンピースの後ろのファスナーを外して、自分の服を脱ぎ捨てて、躊躇しているゆめの服も脱がせて、そのまま抱き上げると、バスルームへ入っていく。椅子に座らせて、髪を洗ってくれる。まるで父親が幼な子の面倒を見ているようだ。ゆめの背中を流してからタオルと石鹸をゆめに渡し、自分の頭を洗いはじめる。ゆめはクスッと笑って、自分の体を洗って、シャワーをかかり、博樹が背中を洗っているので、ゆめが、「私が洗ってあげる」と彼からタオルを受け取って、広い背中を擦る。博樹はくすぐったいのを我慢して目を瞑る。目を開けるとゆめに「ありがとう。ゆめ、さきにバスタブに浸かって」と体を洗っている。ゆめはバスタブのなかから博樹を見る。本当に鍛えたスポーツマンのような体だと思い見惚れてしまう。博樹は洗いおわるとシャワーを浴びて、「ゆめ、僕も入っていい」と聞いてくるので、「どうぞ」と端に寄るが、博樹はゆめを自分の膝に乗せてバスタブに浸かる。ゆめはびっくりして、顔が真っ赤に火照る。「ちょっとずれている旦那様だけれど、優しくて大好き」と思い微笑む。

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