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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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トニーへの報告

 家に入って居間に行くとジィムと美貴が、どうしたのという顔をして見てくる。

 ゆめが博樹を見て微笑むと、博樹は「僕たち、婚約したんだ」と二人に報告する。美貴がゆめに飛びついて「おめでとう」と祝福してくれる。「二人ともおめでとう。結婚式はいつするの」とジィムも祝ってくれる。

「八月の終わりに式を挙げて、九月にヨーロッパ個展があるから、それにあわせてハネムーンに行きたいんだ」とゆめを見る。ゆめはにこにこしてうなずいている。

「あら、そうしたら挙式まであまり日がないわね。ゆめ、準備とか大丈夫なの」と美貴が心配してくれる。

「ええ、大丈夫よ。ウェディングドレスはすぐにダニエルへ頼むわ。出席者もママと里子ちゃんに電話をして、ジィムと美貴ちゃんが出席してくれればいいんですもの。本当に内輪でするの。ああ、そのまえにトニーに言わないとね」と笑っているが「それが一番問題なんだ」と博樹が苦笑いする。

「あら平気よ。反対されれば駆け落ちしましょう」と、ゆめが平然と言うので「ヒロ、君の奥さんはすごいね」とジィムが真顔になる。

「浮世離れした夫と天然の奥さんだもの。最強よ」と美貴がジィムに囁く。

 夕方にブライス夫妻が帰宅して食事になる。

「なにかあったのかい。皆うれしそうじゃないか」とトニーが聞いてくる。

「トニー、お食事の後でお話しがあるの。いいかしら」とゆめが答えて、博樹も「ジェニーにも聞いてもらいたいんだよ」と言って、ブライス夫妻を見る。

「ああ、いいよ」とトニーは食事をしながら返事をする。

 食後、居間でトニーとジェニーに向かいあって博樹とゆめが座っている。ジィムと美貴はジュニアが退屈しないように遊び相手をしていてくれる。

「なにの話かい」とトニーがゆめと博樹を見る。

「トニー、僕とゆめは今日婚約しました」と博樹は真っ直ぐトニーの目を見て報告する。

 それを聞くとトニーは目をつぶって、しばらく無言だった。

 目を開けるとニヤリとして「おめでとう。それで式はいつだい」と満足そうに聞く。

「八月の終わりにしたいんだ。それから九月にヨーロッパで個展があるから、それに合わせてハネムーンに行きたいと思っている」と話すと、トニーはうれしそうにうなずいている。

「ゆめ、よかったね。二人とも、幸せになるんだよ」と慈愛に満ちた目でゆめを見つめる。

「本当にうれしいわ。ヒロ、ゆめのことをお願いします」とジェニーも祝福してくれる。トニーが博樹の耳元で、「これで君は僕の息子だよ」とニヤッとする。トニーが博樹をアメリカに呼びよせたのは、彼を養子にしようと考えていたのだが、博樹が西海岸へ行ってしまって、そのまま断ち消えてしまっていた。それで、ゆめと結婚することで義理とはいえ、親子になることを喜んでいた。

 博樹も、ゆめとジェニーが話しあっているのを確かめて、彼女に聞こえないようにトニーに聞いてみる。

「トニー、どうして理絵がすんなり離婚を承知したんだい」

「あっ……それは運がよかったんだ。直樹のサッカーのコーチが、理絵が独身だと思っていてね。結婚を望んでいたんだよ。彼は小学校の先生で、君より一つか二つ年下だったはずだよ」

「よかった。彼女も直樹も幸せになってほしい」と博樹は心から思った。

 翌日からゆめと博樹の結婚の準備でブライス家は大騒ぎだった。

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