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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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トニー・ブライスって……?

 ゆめがトニーと一緒にホテルに帰ったあとにメグたちはトニーの話で盛り上がった。

「素敵なお父さんね」

「そうね思っていたよりお若いのね」

「運転手つきの車だよ」

「わざわざ車から降りてドアを開けてくれるなんて映画の世界みたい」

「ゆめのお父さんってなにものかしら」

「トニー・ブライス、どこかで聞いたような。だれだったかな」

 皆それぞれ帰っていった。

 メグはニックの車で帰宅しているときに、

「ゆめって大金持ちのお嬢さんなのかしら。あのね、彼女が着ている服はいつもダニエルなの。ダニエルって、いま人気のフランスのデザイナーなの。それにアメリカで売っていないからフランスまで買いにいっているのかしら。持ちものもブランド品ばかりだし」

「そうかもね。いつもは画家の家でメイドの仕事をしながら大学へ来ているんだろ。よくわからない子だよね」

「でもとてもいい子よ。自慢することもなく、偉ぶったりもしないし。私、ゆめと気があうし、一緒にいると楽しいの」

「僕もいい子だと思うよ。とにかくあんなきれいな子は大学中を探してもいないよ。それにしても、ゆめのお父さん、気になるな」

 とニックは記憶のなかを探すが思いださなかった。

 自宅のパソコンで検索して驚いた。数々の会社を統括している大企業家だったので、なんども見かえした。しかし自身の家庭のことは一言も載せていなかったので、ゆめのことはわからなかった。家族、それも子どもは誘拐される恐れがあるので掲載されないことが多かった。

「ふう〜んなんだ、なにもわからないじゃないか」と呟いていると、姉が彼の声を聞いてそばに来た。

「なに、どうしたの」と聞いて「あらトニー・ブライスを調べているの。彼の会社に就職できたらいいのにね」と四年後の話になる。

「いや違うんだ。友達のお父さんが彼じゃないかと思われるんだよ」

「ラッキーじゃない。その子と仲よくして彼の会社に入れると将来安泰よ」

「僕の成績では無理だよ」

「そうかもね」

 姉はあっさりと認めて行ってしまう。

 ニックもパソコンを消して、ベッドに寝転んでしまう。

 ゆめはニックにトニーのことを調べられていることも知らず、新しい年になってもいままでどおり、皆と仲よく楽しい日々を送っている。ニックも調べたことをだれにも言わず、彼もいつもどおりゆめに接している。

 家では博樹がゆめに、ゆめの働いているところを描きたいと言って承諾を得ると、ゆめがお料理をしている姿や洗濯ものを干している姿や掃除をしている姿など、動いているゆめを描きはじめた。その絵はまるで生きているように生きいきとしていた。目があうとゆめの笑顔に博樹もよく笑うようになった。ジィムと美貴は博樹にとっても自分たち四人の生活にとってもよい傾向だと喜んだ。

 ゆめは自分の仕事があることで満ちたりた気持ちでいられた。

 家事と学業を両立させて、自分に自信を持てるようになった。皆が食事をおいしいと言ってくれることや、掃除をして部屋にお花を飾ったり、洗濯ものを干していると、美貴が手伝ってくれて、二人でいろいろと話して笑いあっていたり、四人でお茶の時間を楽しんだりと幸せだった。

 お散歩の時間もゆめは大好きだった。はじめて見る草花の名前をジィムに教えてもらったり、博樹がお花や小動物をスケッチしてくれるので、ゆめは感心して喜んだ。それを見て博樹もうれしくなった、にこにこと話してくれることがゆめにとってもうれしいひとときだった。

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