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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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友人二人が考える博樹の気持ち

 翌日は一日、庭の草取りをして、家の前がこんなに広かったんだと皆で実感した。

 草取りで汗をかいた博樹とジィムは上半身裸になって汗を拭くので、ゆめは二人を見て画家と弁護士にしては体格がいいんだと思った。特に博樹の鍛えた体は絵筆を持って仕事している人には見えなかった。

 ゆめはお花を植えたくて、次の買いだしの日の土曜日に草花の苗と種を買っていいか博樹に聞くと、会計はジィムが担っているので、彼に聞いてほしいと言われ、ジィムに聞くと即諾してくれ、二人でなにを植えようか話しあった。

 昼過ぎに開けっぱなしになっている門の横のフェンスに沿って、下の土をスコップで掘り返して柔らかくしていると、しゃがんでいるゆめの後ろに足音が聞こえた。ゆめはジィムが見にきたと思って、

「ねえ、ここにコスモスを植えたいのだけど、いいかしら」と尋ねると、「僕もコスモスがいいと思うよ」と返事があったが、ゆめはえっと思って、胸の鼓動が早くなった。

 立ち上がって恐るおそる振りかえると、トニーが優しく笑って立っていた。

 そしてゆめを抱きしめると「会いたかった」と呟いたので、ゆめは「ごめんなさい」と言うしかなかった。

「君が僕のそばからいなくなるなんて、考えもしなかったよ」

「お手紙を読んでくれた」

「ああ、読んだよ。ゆめの気持ちはわかったよ。でも、君がいないと淋しいんだ。クリスマス休暇には帰ってくるんだね」

「ええ、私の家はトニーがいるところですもの。ジェニーにも会いたいわ」

「それまでは携帯で我慢しているよ。ほら、君の忘れもの」と、携帯電話をゆめに渡す。

「ところでここの生活はどうだね」

「まだ着いてから二日だから、詳しくはわからないけれど、いまのところは快適よ」

「それはよかった。困ったことや悩みごとがあったら、言ってほしい。僕にできることならどんなことでもしてあげるからね。約束だよ」

「ありがとう。トニーにはいままでも私のためにいっぱいいろんなことをしてもらっているわ。少しだけ、私にできることを頑張るわね」

「そうそう、もう一つ君に渡さないと」と二枚のキャッシュカードをゆめの手に手渡す。

「トニーいいの」とゆめが聞く。

「そのカードはゆめのために作ったものだよ。アメリカとスイスの銀行だから、世界中、どこでも使えるよ。僕は君の幸せを願っている。愛しているよ」と、ゆめの頭と額にキスをして、しばらく黙って抱きしめていたが、

「そろそろ行かなければ。あっ……そのまえに」

 と言って、仕事部屋の掃きだし窓から出てきて、二人を見守っていた博樹のそばに行って、「ゆめを守ってやってくれ」と頼んだ。

「もちろん、そのつもりだよ。それから、僕を殴りに来たんじゃないの」と返事するが、「ああ……そのつもりだったよ。でもやめた。ゆめを悲しませたくないからね」と帰ろうとして、もう一度、博樹のそばに戻り、「ゆめに手を出すなよ。君でも許さない」と大真面目に言い渡す。

「トニー、そんな心配はいらないよ。それより大学生の半分は男なんじゃないのかな」

 博樹の言葉にトニーは嫌な顔をしたが、博樹の胸に軽くパンチをして、ゆめのそばに戻り、ゆめの頭を撫でて、ビルの運転する車で帰っていった。

 車が見えなくなっても、いつまでも立ち尽くすゆめのそばに行き、

「ゆめ、君の部屋に戻るかい。それとも散歩するほうがいいかな」と優しく聞いてくれる。

「お散歩したい」と言って博樹の手を握り、「一緒に行ってくれる」と聞くので、「ああいいよ」と博樹の仕事部屋から出てきたジィムと美貴に目で合図して二人で出かけていく。

「ヒロは優しいね」と落ちついたゆめが話しかける。

「ゆめにそう思ってもらえてうれしいよ」

「私が悲しいときや困ったときに、いつもそばにいてくれるわ。なんだかお父さんみたい」とふふっと笑う。

 ゆめの笑顔はうれしいが、お父さんみたいと言われて少しガッカリしたが、それは信頼されているのだと思いなおして、はっとする。自分はゆめにとって友達なのだと言い聞かせるが、もし、離婚が成立したら……と思いが巡る。

 あとに残ったジィムと美貴は自分たちの仕事部屋で向きあって、置いてある机越しに話していた。

「私、心配なんだけど」

 美貴の言葉に、なにと言うようにジィムが美貴の目を見る。

「ヒロはゆめのことが好きなんじゃないかしら」

「好きだと思うよ。僕もゆめが好きだよ」

「友達としてではなく、一人の女性として好きなんじゃないかしら」

「そうかも」とジィムは思い返していた。

「ゆめのほうは、いまは友達と思っているでしょうけれど、このさき、ゆめのほうもヒロのことを好きになるかもしれないわ。ゆめはヒロが妻帯者だと知っているのかしら」

「トニーから聞いているかもしれないよ」

「それならいいのだけど。私、それとなく言っておくわ」

「美貴って、意外と心配性なんだね」

「あとで揉めることになるのが嫌なの」と真面目な顔になる。そして仕事に戻る。

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