心機一転、西海岸へ
翌日の昼下がり、ゆめが美貴に話し駆けていた。
「ねえ、美貴ちゃん。一人暮らしってどうだった」
「どうって、大変だけれど、楽しかったわよ。どうして……」
「私も一人暮らしをしようかと思うのだけれど」
「えっ……それはトニーが許すとは思えないわ」
「クラスメイトの半分くらいは一人暮らしをするのよ。私も将来のことを考えて、一人で生きていけるようにしたいの」
「ゆめはそんな心配はいらないわよ。すべてトニーがゆめにとって一番いいようにしてくれるわよ」
「それが嫌なの。トニーがいないとなにもできない。トニーに依存した自分が嫌なの。自分の足で立って生活したいの。こんなこと言ったら恩知らずかしら」
「そんなことないよ。ゆめが自立したい気持ちはよくわかるよ」とジィムが口を挟んでくる。
「僕もゆめの気持ちがわかるよ。ジィムと美貴がよければ、ゆめは西海岸にきて、僕たちと暮らしてはどうかなと考えたんだけれど……」
「そんなことしたらトニーが怒らないかしら」
「そりゃあ怒るだろうね」とジィムは面白がっているようでもある。
「ゆめの気持ち次第だよ。トニーのいない、いまがチャンスだと思うんだ」
博樹はトニーの怒りよりゆめの涙を選んだ。
ゆめは西海岸へ行くことを決意して、三日後には四人で西海岸へ帰っていった。
それよりまえに、まずはじめに大学へ行って、退学届けを提出すると学長に呼ばれ、理由を聞かれた。ゆめは正直に独立したいことを告げると、西海岸に姉妹校があるから編入できることになった。入学金や四年間の授業料はすでに入金されていたので、そのまま姉妹校へ払いこまれることになった。
ゆめは知的な紳士の学長にお礼を言って帰宅すると、持っていくものを選んで箱詰めをした。「ダニエルの箱が役に立ったわ」と捨てずに置いておいてよかったと思った。
これは絶対持っていこうと思って、衣類のあいだに、そっと入れたのはトニーと二人で写っている写真だった。
「ごめんなさい」と胸のなかで呟いて、涙を拭った。
ゆめが博樹たちと西海岸へ行くからとメルに伝えると、彼女はゆめが遊びに行くと勘違いして、快く送りだしてくれた。
西海岸の家は海が見える高台にあり、家のまわりは植物だらけで手入れがされておらず、家は絵本に出てくるようなかわいい建物なのだが、いったいいつ建てられたのかと思ってしまうほど、古かった。なかは掃除が行き届いていず、人が住んでいるのかと思えるほどで、ゆめは少し不安になった。それでも疲れていたので、自分の部屋へ連れていってもらって、そのまま眠ってしまった。