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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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ゆめ、高校に通いはじめる

 風が花の香りを運んでくる暖かい春の日に、ゆめは高校に通いだした。

 心臓に疾患があるので運動以外の勉強をすることになった。

 入学のためのテストは優秀な成績だったので、皆、さすがトニー・ブライスの娘だと思った。すべてのクラブが彼女に門を開き、先生がたも優しかった。

 トニーの母校でブライス家が多額の寄付をしていることもあるようだ。そのうえ、美しい少女は男子生徒の憧れの的になった。すぐに親しい友達ができて、楽しい学校生活になった。通常はアランの運転で送り迎えされるので、学校帰りの寄り道はできなかったが、ゆめにとって満ちたりた毎日だった。

 トニーはゆめが学校へ行くことが決まった日に、彼女のために車を購入した。自分が乗っているのと同じタイプで、運転手はアランにした。

「アラン、ゆめが学校へ行くことになってね。それで君に送迎してほしいんだ。ビルは僕の送迎で忙しいからね」

「はい、わかりました。それで新しい車を購入されたのですね」

「君との契約で僕を守るという箇所をゆめとして、新たに契約したいんだ。報酬はいままでどおりでいいかな」

「はい、それで大丈夫です」

「これが新しい契約証だ。目を通して、よければサインしてくれ」

 アランは契約証にサインしてトニーに返した。ビルもアランもただの運転手ではなく、ボディガードとして契約していた。二人とも警察学校出身で、法律に明るく武芸に秀でていた。

「なにがあっても、ゆめを守ってほしいんだ。僕が死ぬようなことになっても、この家はメルが切り盛りしてくれて、いままでどおりに暮らせるし、会社から僕に振りこまれる金額はゆめの口座に入るから安心して。それから、これも覚えておいてほしいんだ。ゆめは体が弱い。心臓の動きが悪くてね。毎日、朝夕二回薬を飲まないといけないんだ。あの子がいつも見につけているポシェットに一週間ぶんは入れてあるが、キッチンの食物庫に半年ぶんは置いてあるんだ。なくなればスミス先生に言えば、すぐにもらえるからね。僕がこんな話をしたことはゆめには秘密だからね」

「わかっています。ゆめ様は絶対にお守りします」

 アランは頼もしく約束した。

 トニーはアランの誠実な性格を知っているので安堵した。

 トニーとゆめは、だれが見ても仲のよい親子だった。スポーツ好きのトニーに影響されて、ゆめもスポーツ観戦が好きになって、テレビのスポーツ放送をよく見た。トニーの母校の大学へ遊びに連れてもらって、バスケットにサッカー、それにトニーがしていたアメフトを見てまわった。

 アメフトをしていた後輩が二人のところに走ってきて挨拶した。

「ブライスさん、こんにちは。今日はなにかあるんですか。おや、こちらのお嬢さんはどなたですか」とゆめに気づいて聞いてくる。

「僕の娘だよ」

「えっ……あの、結婚されていたのですか」

 トニーは真面目な顔で「結婚をしなくても子どもはできるんだよ。君は知らないのかい」と聞きかえす。

 返事に困っているのを見て、ニヤッとして「ゆめ、僕の後輩たちだよ。君のことを知りたいみたいだね」とゆめの肩を抱いて、皆に紹介した。

「試合があるのですが、観にきてくれませんか」とゆめを熱心に誘う。

 ゆめがトニーの顔を見るとうなずくので、

「ええ、観にいきます。頑張ってくださいね」

 とニコッとすると学生たちは絶対に勝とうと思った。

 その日から、ゆめに男子大学生たちからよく電話がかかってきた。ジェニーとメルはうれしい反面、心配していた。トニーはゆめの人気があることは喜んでいたが、お誘いの許しはしなかった。

 高校の同級生の男子もゆめとの交際を望んだ。女子の友達は的確なアドバイスをしてくれたが、ゆめは友人としては付きあうが、彼氏は作らなかった。高校の友達に対してはトニーも寛容だったので、邸によく遊びにきた。

 不思議に思ったジェニーは、トニーに「お付きあいをするのに大学生はだめで高校生はいいの」と質問してみた。

 それに対してトニーは大真面目に答えた。

「大学生は大人だから、ゆめを拐っていくかもしれないが、高校生は大きいと言ってもまだ子どもだから結婚相手にはならない。ゆめは大事なブライス家の跡取りだからね」

 ジェニーはあきれながらも、トニーのゆめに対する愛情を感じた。

 トニーは家にいるときはいつも顔を出して、ゆめの友達と少し話してからその場を離れた。友達のあいだではトニーは好評判だった。美男子で物分かりがよく、優しいお父さんだった。ゆめにとってもそうだった。こんなにそばにいて安心する人は、ほかにいなかった。

 アメフト部が他校と試合をするというので、ゆめはジェニーと一緒にトニーに連れてもらい大喜びであった。勝試合だったので、トニーは部室宛てにお祝いの飲料を届けた。監督もコーチも、ブライス家からの寄付で部活動が円滑に行われるので、お金は出すが口は出さないトニーに対して感謝していた。

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