クリスマスパーティ
土曜日の昼下がり、トニーがゆめを呼んで、ダンスを教えはじめた。
「なかなかいいよ。これならすぐに覚えられるね」といつものように優しい。
「美貴ちゃんからクリスマスパーティがあると聞いたけれど、私も行くの?」
「もちろん、僕の娘のお披露目だよ。ゆめはパーティの中心人物で人気者になると思うよ」
「私、いろいろ話しかけられても、返事に困るわ」
「大丈夫だよ。ええとか、そうねとか。適当に言っておいて、ニコッとすればOKだよ。デートの約束とかはNOだよ。父の許しがいると言えば、皆引き下がるからね」
「わかったわ。ちょっと安心」
クリスマスイブの前日の夕方から会社主催のパーティが十階建てのビルの一階ホールで催された。
正装に身を包んだ男女が集って、飲み物を片手に談笑していた。そこへ早い目に夕食を済ませた社長のトニーと秘書のジェニー、それにいつもの博樹たち三人とはじめてのゆめがホールに入っていくと、どよめきが起きる。前会長夫人を知る人たちは社長の母方の親戚の子かと思った。
社長はいつも通り「今日は皆で楽しんで。クリスマス休暇後は、今年同様に頑張ってください」と挨拶をする。そして、ゆめの手を取って、踊りはじめる。
トニーとのダンスは心地よかった。ゆめは自分の背中に羽が生えたように体が軽やかに動いた。美貴はジィムと、ジェニーは博樹と踊っていた。一曲終わるたびに男性たちがゆめと踊りたがった。ゆめの美貌とトニーとの関係が気になっていた。夢は前日に美貴から男性との会話術を習っていたが、戸惑うことばかりだった。ほとんどがトニーの会社の人たちとその子息だった。
「僕は○○の○○です」
と大学名と氏名を名乗り、ゆめに名前やトニーとの関係を聞いてくる。トニーの娘だとわかると、また会いたがった。パーティに出席している人々は、ゆめの母親がだれなのか、いままで娘の話など一切なかったのに、いまごろなぜだろうと詮索した。社長がなにも言わないし聞くこともできなかったが、古株の社員たちが「前社長の奥様にそっくりだ」と話しあうので、ゆめの母親はトニーの母方の女性ではないかと考えられた。
ゆめはこれからの予定はわからないので、お約束はできないと断った。トニーと美貴の言ったとおりだと思った。もう帰りたいと思っていると、博樹がスッと来て、ゆめを端に置いてあるソファーに座らせてくれた。
「少し休憩したほうがいいよ。なにか飲む?」
「お水が飲みたいわ」
うなずくと博樹はお水を持ってきてくれる。
「ありがとう」
ゆめにお水を渡して隣に座る。
それから二人でクリスマス休暇の過ごしかたなどと、パーティとは関係のない取り留めのない話をしていた。そこへトニーとジェニーとジィムと美貴がきて、
「そろそろ、お姫様は帰らないと。おねむの時間だね」
とトニーはいつも早く眠るゆめを気遣って、帰り支度をはじめる。
ゆめにコートを着せかけて、ビルの運転の車で帰路に着く。車内のゆめはトニーの腕のなかで眠った。トニーはゆめがかわいくてたまらないように、彼女の頭に頬擦りする。トニーの子煩悩な様子に、皆の表情が緩む。