お嬢様に仕える執事の苦難
「私よりもワールドアナウンスに流れるなんて許せないわ!」
私はシンシアお嬢様の執事をしています、ディンセムと申します。お嬢様は自分が一番ではないと癇癪を起こすという厄介な性格をお持ちです。私が言うことではありませんが、お嬢様は一番になりたいと思っていますが、努力を嫌います。そのため、残念ながら勉強では一番になることができませんでした。
「ああ、もうっ! なによ、私が一番でしょう? 私のことを認めてたじゃない! なのになんで、みんなノウィルって名前を話すのよ!」
お嬢様は癇癪を起こしになり、メイドを全て辞めさせてしまいましたので、一番になれる可能性のあるゲームを旦那様は勧められました。楽しみながら一番になれるのなら、勉強で一番になれなくても癇癪を起こさなくなるだろうと旦那様は言っておられました。
「ディンセム、ノウィルという奴を探し出しなさい! 良いわね!」
「お嬢様の仰せのままに」
お嬢様の癇癪に慣れてしまった私は、旦那様に頼りにされています。お嬢様を抑えることができるのは私だけだと、頼りにされるのは少し不満を持ってしまいますけれど。
「どうしたの、ディンセム?」
「呼び出して申し訳ありません。今日はサランに頼みたいことがありまして」
「なにを頼みたいの?」
「ノウィルという人の捜索です」
私が捜索と言った瞬間になにか心当たりがある様子で頷きました。サランの姿が噴水の中に消えました。サランは水の妖精で、水のある場所ならどこへでも行けるようです。数分するとサランが戻ってきました。
「やっぱりね。ノウィル様の話なら、あんまり聞かせられないかも」
「ノウィル様ですか?」
なぜ敬称を付けるのでしょうか? 妖精は基本的に人間を見下しているところがありますから、プレイヤーに敬称を付けることがありません。どういうことでしょう。
「ウンディーネ様の契約者だからね。敬わないとウンディーネ様に叱られちゃうよ」
「ウンディーネ様とは誰でしょうか?」
「私達よりも遥か上の存在だよ。海を干上がらせたりできるから、逆らっちゃダメ! ノウィル様の話を聞きたいなら、まずウンディーネ様に信頼されないと。それだけでも、駄目だろうけどね。あそこにいるのは、神の領域に入っちゃってるぐらい強い人ばっかだもん」
「大変そうですね。お嬢様にどう報告しましょうか」
しばらく考え込んでいると、サランが声をかけてきました。心底嫌そうな顔をしながら、私に提案をしようとします。大方、お嬢様の機嫌を取ろうかという話でしょう。お嬢様はサランを気に入っていますが、サランはお嬢様のことを嫌っていますから。
「お嬢様の機嫌を取ろうとしなくても、良いですよ」
「えっ、ほんとに? でも、あの子に色々言われちゃうよ?」
「サランがいないときには、いつも色々と言われていますので…大丈夫ですよ」
「そっか、うん。嫌だけど、やっぱり私が機嫌取ってあげる」
よほど驚いた顔をしていたのでしょう。サランが面白さそうに笑っています。サランの笑顔を見ると、お嬢様に傷だらけにされた心が癒されますね。
「だって、可哀想じゃん? 淀んだ思いが妖精になっても困るしね」
妖精は思いから生まれるそうでして、淀んだ思い…つまり悪い気持ちが妖精になると、世界を混沌へと陥れると言われているようです。それほど、お嬢様は私に無茶な願いを言っているのですね。
「申し訳ありませんが、お願いします」
「了解しました! じゃあ、行ってくるね!」
「本当にありがとうございます、サラン」
「大丈夫だよ!」
サランが時間稼ぎをしてくれるようですが、ふとしたときに思い出すでしょう。なにか良い言い訳を考えなくては、いけませんね。そういえば、いつの日かどんな人間でも更生させることのできるオンライン教師がいましたね。その人にでも頼みましょうか。
「はぁ」
頼むとしても、その前に思い出されたら困りますね。やはり言い訳を考えなくては、いけませんか。正直に言ってとても面倒です。お嬢様は一番に関することだと、勘が良くなりますからね。手の込んだ言い訳を考えなくては。
「はぁ」
溜息ばかり吐いてしまいます。直接的に異議を言うことはありませんが、そうですね。旦那様に一つ文句を言うとすれば、お嬢様を蝶よ花よと育てるのは、やめていただきたかったです。
「ふう、これからどうしましょうか」
これからのことを考えると、とても憂鬱です。大企業の執事というのは、全く楽ではない仕事でした。誰かこの思いを共有できる人がいると良いのですが。私の愚痴を永遠に聞き続けて、たまに相槌を打って、わかると共感してくれる人はいませんかね? 意味がわからなくても良いので、誰か私の愚痴を聞いてください!
「はぁ」
愚痴を聞いてくれる人を募集中です。とはいえ、そんな人はいないのでしょうけれど。もしそんな人がいたら、神様です。絶対に手放してはいけませんよ。わかりましたね!
「ディンセム、ディンセム」
「あっ、はい。なんでしょうか?」
「あの子が呼んでるよ。たぶん愚痴を聞かされるんじゃないかな?」
「うっ、そうですか」
私が募集しているのは、ちょうど私の業務内容に当てはまります。手放してはいけませんと言いましたが、本当にその通りで私のことを手放しません。旦那様は愚痴を少し零される程度ですので良いのですが、お嬢様は一日を通して愚痴を言い続けます。
「ねえ、ディンセム。私の言いたいことはわかるわよね? ええ、貴方が紅茶を用意しなかったということよ。どこへ行っていたのかしら?」
お嬢様がお命じになられたのではありませんか。という言葉は、飲み込むしかありません。私のこの辛い日常が変わる出来事に会えると良いのですが。そう思った数日後、本当に日常が変わる出来事にあってしまったのです。




