犯人がわかりました
気を取り直して、朝になりました。今日の昼までに犯人を見つけないといけません。ディーネという心強い味方がいるので、大丈夫だとは思いますが……。
甘えるわけにもいかないので、私が犯人を見つけたいと思います。そのための力は十分に持っていますし。
「この部屋でお留守番していてくださいね」
いつの間にか私のベッドに入っていたディーネに言い聞かせます。こくんと素直に頷くので、危機感が足りないような気がします。
「しょうがないなぁ、わかった!」
その言葉は私に遠慮しているような印象も受けますが、どうしましょう?
この件が片付いたら思いっきり甘やかすことにします。その前に頭を撫でてあげましょう。
ディーネは撫でられるのが、好きみたいですから。
「ええ、良い子ですね」
「うん! 良い子だから、ずっと一緒にいてね…」
悲しそうな、落ち込んだ様子を受けます。前に約束した人は去ってしまったのでしょうね。
ずっと一緒にいてほしいというお願いは、寿命という概念がある私達にとって難しいですから。
精霊という大切な役割を持つディーネの寿命は、ないに等しいです。私だったら一緒にいることができるのでしょうか。それとも………?
わからない未来のことは考えても仕方ありませんね。
「では、いきましょうか」
「わかりました。ノウィル様」
「待ってるから、早く帰ってきてね!」
見送るディーネに手を振って部屋の外に出ました。なんだか名残惜しいです。ディーネが寂しそうな表情で私を見送るからでしょうか?
「大丈夫ですよ、ノウィル様。ウンディーネ様のことは心配しないでください」
嫉妬しているような表情でディーネの話をします。なぜでしょうか。もしかして、私のことを思ったより好いてくれているのかもしれません。思わず笑みが浮かんでしまうほど、嬉しいです。
「ホーラも大好きですよ」
「私もノウィル様のことが好きですよ」
狼狽えた様子がなくて残念です。でも、よく見てみるとホーラの頬が赤いですね。
照れているのでしょうか? 可愛いですね。ディーネと違って身長差があるので、撫でることができませんけれど。あっ、そうです。
「な、なにを…………」
抱きついたら、狼狽えてくれました。ホーラの無表情の仮面を外せたようで、とても嬉しいです。やっぱり表情があるほうが可愛いですね。
無理に表情を引き出そうとは思いませんが、たまには色々な表情を見せてほしいです。
「本当にホーラは可愛いですね」
「冗談はおやめくださいませ」
「冗談ではありませんよ?」
「おやめくださいと申しました」
要約すると恥ずかしいからやめてほしいということでしょうか? ホーラがとても可愛いので、揶揄ってしまいたくなります。
これ以上ホーラを揶揄うと、色々な表情を見せてくれなくなりそうなので、やめておきましょう。
「わかりました。この話は終わりにして、まずはウェスペルのところへ行きましょうか?」
「ウェスペルでしたら、大浴場にいると思います」
「お風呂があるのですか! 今日からお風呂に入っても良いでしょうか?」
「知っているとは思わず、失礼いたしました。今日から湯浴みの準備をさせていただきます」
お風呂があるのですね。私にとってお風呂は、全ての傷が癒されていくような効果を持っています。
普通のお風呂なのでしょうか? 温泉だったら、とても嬉しいのですが。それよりも、お風呂は知られていないのですね。
確かに最近は備え付けのお風呂がある家も少ないですか。カプセルに一分ほど入って、汚れを取るだけですからね。
「どうしましたか。ノウィル様」
「いいえ、なんでもありませんよ?」
お風呂に入ってほしいという願望が表情に浮かんでいたのでしょうか? それほど私はお風呂に対する思いが深かったのですね。ふむ。よく考えてみると、お風呂の気持ちよさを布教していた自覚はありますね。
「あっ、ご主人様っ! おはようございますっ!」
いつの間にか大浴場に着いていたようです。お風呂についての熱意を考えていただけで、歩いている感覚を忘れてしまうとは。
一度集中してしまうと、その他のことを忘れてしまうのは悪い癖です。
「おはようございます、ウェスペル」
早速ですが、ウェスペルの属性を見てみます。逃げてしまっては、いけませんから。
ウェスペルの属性は緑色ですね。ということは、風の属性だけを持っているということでしょうか? そういう人もいるのですね。珍しそうです。
「大浴場の掃除を頑張ってくださいね。今日は私も入りますから」
「そうなんですねっ! 頑張りますっ」
気合を入れているところでしたが、ホーラの表情を見て恐怖からなのか固まりました。
ホーラの前では言葉遣いを直すと自身に言い聞かせていたようですが、気が抜けると言葉遣いが元に戻ってしまうようですね。
それは……頑張ってくださいとしか言えません。
「ウェスペルは犯人ではありませんでした。カエルムに会いに行きましょう」
小声でホーラに伝えます。想像以上に怯えていますから、小さな声でなかったとしても、聞こえなかったかもしれません。聞こえないに越したことはありませんけれど。
「そうですか。説教はあとでしますので、覚悟しておいてください」
「ひっ! は、はいっ」
怯えて固まり続けています。そんな様子のウェスペルを置いていくのは心苦しいですが、一刻も早くカエルムの元へいかなくてはなりません。
逃げられたら困るので、カエルムのいる場所に急いで向かいます。
「申し訳ありません。カエルムのいる場所を見失いました」
どうやら気付かれて、逃げられてしまいました。溜息を吐いた瞬間にぞわっと悪寒を感じます。思わずホーラの手を掴んで私のほうに引き寄せたのですが、どうやら正解だったようです。
『なんで気付いたのかなぁ、僕のこと』
カエルムの姿ですが、髪の色が全て青色になっています。もう一つ違うのは、一人称が〝僕〟というところですね。
なんだか気味が悪いです。なぜか震えが止まりません。
「貴方は何者なのですか! 怖いというよりも、気味が悪いです」
『あぁ、それはね。器を乗っ取ってるからだと思うよ?』
「器を乗っ取るとは、どういうことでしょう?」
声が震えるのがわかります。私の知っているカエルムがいなくなるという恐怖からでしょうか?
私は本当にみんなを大切に思っているのですね。
『この子さぁ、男性不信だからかな? 上手く乗っ取れなかったんだよねぇ』
「だから、乗っ取るとはどういうことですか!」
『あんまり急かさないでよ。殺しちゃうよ、この子。この子を殺しても、他の子を乗っ取るだけだからね』
私では手を出せないほど強大な敵です。こんなことなら鍛えておくべきでした。
犯人が私の話を聞いてくれるという保証はないのですよね。覚悟もしないで、敵に立ち向かうなんて…私は馬鹿でした。
「ふふん、ピンチのときこそ参上するよぉ! 正義の味方、ウンディーネちゃん! なんて、てへへ」
思い切って参上したのは良いのですが、シリアスな空気に押されて恥ずかしくなってしまったようです。
ほのぼのさせるような可愛いことしないでくださいよ! シリアスな空気が払拭されたのは、良いことですが。




