マテリアルガール
かなり久しぶりの短編小説です。今までの様な心理的に嫌悪感を覚える描写はなく、至って普通のラブコメ。
女には、デートって言う勝負の日がある。
イヴサンローランの新作バッグも、クリスチャンディオールの口紅も、ルブタンで最高の靴も手に入れた。
っていっても、全部言い寄ってくる男が勝手に寄越したものだけど、くれたんだしいいじゃない。
いつもより髪型をキメて、跪いて、「オードリーの為に持ってきたよ」って犬みたいに忠実に言うけど、ちょっと違うことをあいつ等は分かってない。
まさに、他の女からしてみれば目の上のたんこぶ。でも彼氏に最高って言われりゃそれでいい。それが私。
通りに最強のブランドで固めた身を滑らせ、待ち合わせの映画館の予約をスマホで調べながら歩くと大好きな春先のチェリーツリーみたいに、男どもが寄ってくる。
ロックに革を羽織るのも、洒落たスーツのも、悪を気取ってる奴ですらワンちゃんみたいに、あたしと会えたことに喜んでる。
「オードリー、今日も綺麗だね。どこに行くの?そうだ、暇なら食事に行こうか。渡したいものがあるんだ。」
「引っ込んどけよ!オードリーが今欲しいのは、宝飾がバッグに決まってんだろ。可愛いリボンつけて、俺様が贈ってやるよ。」
「俺、最近金入ったばっかりだからさ、前に大好きって言ってた靴屋に行こう。全部買っちゃうから。」
ふーん、どれも悪くないかも。時間があれば…いやだ、もうちょっとで上映だ。
走りにくいヒールで走るのもお手の物になってきたと駆けだせば、周囲の男どもが慌ててついてくる。
見えないリードに引っ張られてるかのようだ。
「ちょっと、オードリーよ。なにあれ!」
「サイテー!相変わらず、男を金で買っちゃって!」
走る途中、やっすいパラソルの喫茶店先で待っていた女共が悔しそうに綺麗事を言って見せる。
顔が古くて陰口が好きな女ってのは、上質な佇まいをおもちゃみたいにするプロだ。
今までは自分達が男に求められていたのに、「まあまあ」な美人だったことに気が付いてももう遅い。
私は違う。顔も体型もパーフェクトなのはもちろん、男が望んでいることだって手に取る様に分かる。
でも、残念ながら尽くしたいっていう男はこの追いかけっこをする連中にはいない。
漸く、見えてきた映画館先に佇んでいる男が見えて、私は頬を染めて叫んだ。
「お待たせ!ダーリン!!」
振り向いた、私の最愛の恋人はこっちを見て手を振る。
その腕から伸びる―――学生時代から使い古した藍色のトレーナーは綻びはじめ
下に着用した「動き易いから」と愛用するだぼだぼのジャージには私がつけたクマのアップリケが目立つ。
足元なんて、擦り切れて生地が割れてる洗ってないスニーカー。
だけど、私に楽しいデートを提供しようと今日もやって来た恋人が、跳ねるように手を振るだけで、どんな男よりも輝いて見える。
呆然としてもう着いてこない男共を置いて、恋人の広げられた胸に飛び込む。
彼は軽々とそれを受け止めつつ、今日のデートコースを早速教えてくれた。
「映画観たあと、公園で昼食しよう。特製弁当作ってきたから。」
「サイコー!そのあとは、映画のあと聞くわ。」
腕を組んで歩き出す私達を見て、次から次へ、男達がくだらないとばかりに散っていく。
中には、見せつける様にアスファルトへプレゼント箱を叩きつける様なヤツも居る。
別にね。いいものには金がかかるんだから、くれるんならそれでいい。
だけど、やっぱりそれ以上に面白い男じゃなくっちゃ、デートなんて言わない。
それに、もし彼がお金に困ったらこんないつでも買えるモン、全部売ってやる。
横を歩く彼は、ゴソゴソとポケットに手を突っ込み、何かを取り出す。
―――あたたかな色の包装紙に入った、たくさんのチョコチップクッキーに私は目を見開く。
「美味しそう!!作ったの?」
「ポップコーンがわりだ。金が浮くぜ!」
彼の言葉に大笑いしながら、私は早速クッキーをかじるのだった。
fin
元ネタはマドンナのマテリアルガールから。
あまり小説を書いていなかったのでリハビリ的に筆を執り、かなり短くなってしまいました。
女性が主人公というのはなぜか慣れないふしぎ…。




