オレは守護衛士をしているマオ・ユーグナルだ。
オレは今、とある宿屋の中にある食堂に居る。
ガラン──としていて静まり返っている食堂の一角にある席に座って、出来立てのパンケーキを食べている。
7皿目のパンケーキだ。
何でオレがパンケーキを7皿分も食べているのかと言うと、オレの目の前── 向かいの椅子に座って読書に耽っているセロの所為だったりする。
セロは──、本当は吟遊詩人なんかじゃない。
吟遊詩人でもないのに『 吟遊大詩人 』って名乗っている “ なんちゃって吟遊詩人 ” だったり。
なんでも、 “ 吟遊詩人 ” という職業は旅をするのに最も好都合らしい。
一言に吟遊詩人と言っても色んなタイプの吟遊詩人が居るんだけど、セロは仙人が持つような長い杖と腰に付けている小さなポーチしか持っていない。
武器にも使えない杖だからほぼ手ぶらだし、武装もしていないし、吟遊詩人が持っている筈の楽器の類いも持っていない。
セロはアカペラで詩歌を歌う。
格好だけは人1倍に吟遊大詩人っぽいんだけど、両手を広げて「 どうぞ、襲ってください 」と言わんばかりの丸腰,無防備,無用心の3要素が揃っている。
実際に旅の道中に盗賊,山賊なんかに目を付けられて襲われる事を期待して、上等で最上高級感の漂う上品な真っ白いコートと白いブーツを履いて目立つ格好をしている。
コートにもブーツにも光の加減によって色が違って見える白銀色の糸で複雑なのに優雅で神秘的な刺繍が施されていて、一目で高価なコートとブーツなのだと分かる仕様になっている。
獲物を誘う為に、如何にも世間知らずで弱々しい吟遊詩人を演出する為に、態と餌になり易い格好を自らしている。
セロは普通の吟遊詩人じゃないから、自分自身を餌にして獲物となる盗賊や山賊を引き寄せた後、連れて行かれたアジトで古代魔法を発動させて、熟睡魔法で全員を眠らせてしまった後、お宝を全部回収して大量の路銀を確保している。
眠らせた極悪人達の身ぐるみを剥いで産まれたままの姿──真っ裸にした後は《 創造主の館 》へ転移させて〈 合成獣 〉の餌にしてしまう。
偶に趣味の実験に使うモルモットにしたりもする。
吟遊詩人らしく詩歌を歌って、人々から路銀を恵んでもらうなんて事をセロはしない。
「 吟遊詩人設定どうしたよ?! 」──って感じだ。
セロに限っては態々 “ 吟遊詩人 ” を名乗る必要なんて微塵もないわけだ。
そんな自称吟遊大詩人を名乗るセロの本名は、セロフィート・シンミンって言う。
「 セロフィート 」は【 人形 】って意味らしくて、「 シンミン 」は≪ 神界 ≫に暮らしている【 神民 】の事を指しているらしい。
セロがオレに教えてくれた事なんだけど、本当に「 セロフィート 」が【 人形 】って意味なのか──、「 シンミン 」が≪ 神界 ≫に暮らしている【 神民 】を指しているのか──、オレに分からない。
セロがオレに話してくれている事が真実なのか──、嘘なのか──、冗談なのか──、分からないし、知りようがない。
オレは人間じゃないセロが好きだし、愛しちゃってるから、セロの事を信じたい思っている。
だから、セロがオレに話してくれる事は全て真実だって──、本当の事なんだって──、信じたい。
馬鹿みたいな事を言ってるいう自覚は大いにある。
だけど……、オレは、そうしたいんだ。