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8話 最強の◇ってね

図書室に籠城し、数時間が過ぎました。

その間、殺し屋の気配はありませんし、王宮の方から悲鳴が届くこともない。

至って平和な時が過ぎていく。


「今の所、何も無さそうね。だから、皆様、寝ても構わないのですよ」

「レミリア一人に任せる訳にはいかない」

「レイフォード様、私はただの貴族ですわ。そんなに気張る必要なんて無いのですよ。国にとって一番必要なのはお二人なのですから」

「臣下あってこその国だ。それを見捨て、何が王族だ。そんな者に私はなるつもりはない」


私が何を言っても、頑固なままです。

国のトップたる王族の命と一介の貴族令嬢。比べるまでもない話です。

ですが、レイフォード様は反論します。


「それに、君は私のきさ……友だ。友を護るのに理由なんて要らないだろ?」


少しばかり詰まりながらも言い切りました。

ですが、きさ?とはなんでしょう?

貴様とでも言いかけたのかしら?


私の貴様って、意味が分からないわ。でも、開発陣が生み出したキャラクター。

その言葉の裏にどれほどの意味が込められているか甘くみてはいけない。


このゲームは月が綺麗ですね、なんて言葉を凌駕する程に、難解な告白があるのだ。

恋を舐めてきり、面白いだろと言わんばかりに奇想天外なストーリーを生み出した過去がある。

そして、それは告白だけではなく、普段の会話にもたびたび登場する。


レイフォード様にとって、貴様という言葉は重い。

それこそ、敵とみなした者にしか、使わないのだ。

——私、そんなにレイフォード様に嫌われることしたかな?

まあ、多少嫌われるくらいなら、問題はありませんが。

私のオシは魔界に居ますし。


「お兄さま、そこははっきりと言うべきなのでは?」

「カノン、今はそんな場合では無いだろ」

「そんなのだから、お兄様は気づいてもらえず、美少女に毎晩呪詛を掛けられるのですね」

「美少女に呪詛だと⁉ それはまさか……レミ」

「わたしです」

「はぁ……全く、心臓に悪い冗談はやめなさい。数日寝込むことになっては、カノンも困るだろう」

「そうかも……」


何故だか、安堵するレイフォード様。

妹に毎晩呪詛を掛けられているのに、晴れ晴れとした表情だ。

もしや、ドMなのでしょうか?

彼の未来が不安ですね。そして前にカノンが言っていたことは真実だったのね。


え? 王族闇深すぎじゃない?


「お二人とも、御冗談はその変で。姉さまが困惑しています」

「リア姉さま、困ったことがあれば何でも相談してくださいね」

「はぁ」


どう返すのが正解か分からず、適当な返事をしてしまう。

だけど、その油断は一瞬で——


「———!」


音は聞こえない。

だけど、僅かに魔素の揺らぎを感じた。

感覚的な話で、証拠はない。だけど、何かが私たちの傍に居るように思えた。


「どこ……?」


辺りを見回す。

扉や窓は開いていない。

けど、


「凄いな。最近の令嬢は感知能力に長けているのか」

「姿を見せろ! カノンは後ろに!」


唐突に私たち以外の声が聞こえ、レイフォード様が叫ぶ。

フィアナが構築した防御結界の中に入り、私は攻撃魔法を展開する。


「“雨音”」


ポツリと、室内に雫が落ちる。

だが、本は濡れることなく。

対象だけを見つけとる。


「これは?」

「姉さまの魔法ですわ。三人とも、私の結界から出ないでください」


眠るユウリをレイフォード様が抱え、カノンら三人はフィアナが展開する防御壁の中に居る。だから、問題は無い。

あるとすれば、相手をどう倒すか。


「雨音ね、珍しい魔法だ。たぶん、魔素の塊を室内に降らしていると。それで、僕の居る所を把握しようって魂胆かな?」

「えっ?」

「甘いね。甘すぎる。そんなので僕を見つけ出せると思っているのか」

「いえ、もう見つけた」


本棚付近から、僅かに魔素が当たる音が鈍い。

これは、見えないものに当たっている証拠だ。


「“霧雨” ———“爆散”」


室内に魔素が広がり、そしてある一点で爆発する。

その衝撃は、室内を大きく揺らし、頑丈な窓ガラスに罅割れる程に協力だ。

もし、フィアナが居なければ、三人とも大怪我をしていても可笑しくは無い。


「姉さま!」

「“風圧”」


私に押し寄せる衝撃を反ベクトルの風をぶつけ相殺する。

当然、対処方法くらいは熟知している。


「はははははははははあは」


だが。

笑い声が室内に響く。

ツボに入ったのか、笑い続ける。

そして———



「ははは——うん、分かった」

「——?」

「“霧雨”」


先ほどの私と同じ言葉を発する殺し屋。

そして———————


「“爆散”」


くしくも、先ほど私が使った魔法を返された。

何十倍の爆発音とともに—————‼



「姉さまっ———!」

「フィアナっ!」


衝撃が押し寄せ、身体中に風圧が押し寄せる。

それは、身体中の骨を砕き、私たちを外へと吹き飛ばす。


「————!」


声にならない悲鳴が響く。

そして、身体中の痛みを我慢し、目の前を見ると黒いローブを着崩した人影が見える。

全身から、魔素が溢れ、表情は読み取れない。

だが、普段見たことがない魔素に視界がチカチカとする。


「つまらない。ああ、つまらないね。少しは期待したのに。この程度か。全く、少しばかり虐め過ぎたようだね」


誰一人、返答ができない。

フィアナの防御結界は辛うじて発動しているが、衝撃は受け流せなかったようで、

三人とも気絶している。

フィアナは何とか、気合で意識を保っているように見える。


「まさか、これでも倒れないとは……あまり、無理するのも考え物だ」

「うぅ……なにが、目的なの?」


痛みはある。

けど、それは生きているということだ。

瞬時に、風魔法を展開し、後ろへと飛び衝撃を殺した。

それでも、爆散した室内の物々が身体中に当たり、骨折はしているだろう。


王宮の回復術者が来れば、一命は取り留めるだろう。

だからこそ、今は、少しでも長く時間を稼ぐ。


「“ふうは”」


風を広げ、辺りに小さめの魔力感知を広げる。

これで、不意を突かれることはないはず。


「“フレア”」


手のひらに小さな太陽を顕現させる。


「まだ戦うつもりかい?」

「ええ、だってここで見逃したら、貴方、人を殺すでしょう?」

「? クハハハハッ。いきなり人殺し呼ばわりとは随分と失礼な令嬢だな」

「違うの?」

「さてな」


適当に返される。

こいつが、ゲーム中最強の殺し屋なのは確定だろう。


まさか、私が使った魔法を何十倍にして返されるとは思っていなかった。

殺傷能力が引く風魔法だから、なんとかなったが、これが炎系であれば、

今頃もっとひどい有様になっていただろう。


「姉さま、避けて!」


フィアナが何か叫ぶ。

だが、私は何も見えない。

否、暗闇が目の前に広がっていた。


「これは……。闇魔法?」

「さあな」


遠くで妹が叫ぶ声が聞こえる。

けれど、今の私には返す気力もなく。


そこで、私の意識は途絶えた。




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