5話 私が魔王ってね
とある日、私とフィアナは王宮へと招かれました。
なんでも、聖女であるフィアナを正式に国民にお披露目するみたい。
——カノン曰く、聖女と魔女、両方の素質を持つフィアナをどう扱うか、数週間に渡り、王族、有力貴族が集う会議にて、話し合ったらしい。
その中には、私たちのお父様も参加し、娘に危害を加えるのであれば、お父様と私が黙っていないと脅したのだとか。
そう、私も脅しの材料に使われました。
一時期、魔界に行くという話が出回り、奇天烈令嬢と揶揄されることもありました。
ですが、最近では別の意味で恐れられることが増えました。
それもこれも、お父様のせいです。
頼まれて、少しばかり大岩を砕いたり、空から雨を降らしただけなのに、最近では豊穣の女神とか破壊女王とか陰で呼ばれているのだとか。
まあ、話の出所がフィアナとカノンだから、噂話の可能性も高いのだけど。
それとは別に、国一の攻撃魔法の使い手として、魔法研究所、魔法使いの館から正式に最強の座を保証すると言われてしまいました。
ここ一月ほどで随分と私の待遇が様変わりしたように思えます。
ですが、フィアナを護ることに繋がったのですからよしとしましょう。
「姉さま、これも美味しいですよ」
立食式のパーティということもあり、小皿を手に有力貴族へと挨拶巡り中しています。
そんな中、フィアナは主役だと忘れたのか私に引っ付いて、美味しい料理を取ってきては渡してくれます。
本来、もてなすのは姉の私なはずですが……まあ、楽しそうだからいいかな。
「フィアナ様、おめでとうございます。私も嬉しい」
「カノン様、ありがとうございます」
少しばかりざわめきが起き、何かと思えばカノンとレイフォード様が近づいていました。
そして、二人ともカノンに祝福をしてくれます。
ふと、レイフォード様とコンタクトします。
少しばかり、おどけた表情にも見えますが周囲の令嬢を騒めかせる魔性の笑顔を浮かべ、私も微笑みを返します。
それを見た、周囲の貴族たちがより一層、騒めきます。
「レイフォード様、本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「いや、なに当然のことだ」
少しばかり会話し、話はフィアナと移ります。
——全く、とんだ茶番ですね。
ですが、流石腹黒王子。演技とは思えないほど自然に接してくれます。
私も同様に、微笑みつつ、周囲に関係性をアピールします。
フィアナが他国の貴族たちに目を付けられないよう、王族の後ろ盾があることを示します。
これは、パーティが始まる前、カノンと打ち合わせした内容にレイフォード様がアドリブで乗っかった結果ですが、流石ですね。
誰もが私たちの良好な関係性を疑わないでしょう。それに、婚約なんて呟きも聞こえますね。
それは、シャットダウンで……いきなり声が出なくなったことにびっくりしたのか、令嬢の一人が青ざめます。
これで、十人目ですね。全く、恐ろしい噂を流すのはやめて欲しいものです。
婚約何てことになれば、魔界に行く夢が潰えます。
それだけは勘弁してほしいものですね。
「そういえば、最近軍部で見かけることが多くなったな。戦争にでも行くのか?」
「レイフォード様、私のことをどう思っているのですか? 流石に、私などが戦場に行くはずがないでしょうに。あれは、お父様に頼まれて、地盤工事のお手伝いをしていただけですわ」
魔法が戦争の主流であるが、広範囲攻撃の使い手は少なく、対人専用の魔法使いの方が多い。だからこそ、地盤を沈めて、塹壕を作ることを続けている。
報酬もあるし、魔力制御の練習にもなるから、意気揚々と向かう姿を道勘違いしたのか、最近では、簡易基地の地盤すら私が担当している。
その時にでも、見られたのでしょう。ですが、遠方な基地で見かけたとは……
「レイフォード様も戦争に行かれるのですか?」
「——まあな。王族たるもの、戦地を知らずに命令なんてできないからな」
もっともらしい言葉に周りの貴族たちは感心している。
だが、フィアナとカノンは二人でこそこそ何か言っているのが聞こえた。
「……違うの……会う」
「姉さま……だから」
言葉の端しか聞こえず、会話の内容を推測することはできませんね。
そもそも、わざわざ私とレイフォード様に聞こえないようにこそこそ話すのです。
ここは、聞こえなかったことにしてあげるが姉の務めでしょう。
そんな私の姿をみて、二人ともため息をついていますね。
そんなに私の考えって可笑しいのかしら?
「では、私たちはこれで」
カノンがお開きの声をかけ、二人とも別の有力貴族に挨拶へと向かう。
その姿は絵画にしたら人気が出そうな程に、神々しく映った。
そう言えば、ゲームでもこんなシーンがあったような。
あれは、フィアナとレイフォード様が婚約を誓う少し前、貴族たちの前で顔合わせをするときの光景に似ている。
だけど、フィアナではなく、妹であるカノンが隣を歩いている。
これも、物語がズレて動いたことによる反動かしら?
これによって、今後のストーリーが変わっていくのかもしれない。
「姉さま、どうかされましたか?」
「何でもないわ。少しだけ、疲れたみたい」
私が知る未来とは少しずつ運命が変わっているのかもしれない。
それが理想通りかは今の私には分からないが。
それでも、隣で笑うフィアナの姿を見られて良かったと思える。
私が描いた理想からはどんどん遠くなっている。
何もしなければ今頃、魔界に飛ばされ、悠々自適な生活を送っていたかもしれない。
それが少し先に滅亡する僅かな出会いだとしても……
だけど、それは私が何千回も繰り返したバッドエンド。
私が彼と幸せになることは叶わない。
故に、精々足掻くことにしたのだ。