41話
負の感情。生んだのは少女か。はたまた穢れた精霊か。
それは今の私には分からないし、簡単に理解してあげることはできない。
でもね、だからといって、見捨てていいはずがない。
私が大好きなゲーム。
その中でも、清廉潔白な少女の成れの果て。本編では語られなかった物語。
悲惨な場に私だけが立ち会っている。
開発陣の思うままに創られた光景の一つかもしれない。この世の全ての不幸を少女に詰め込んだだけだよと笑いながら宣うかもしれない。
でもね……私にとってはここが現実なの。
——彼女を助けてあげたいと心の底から思う。
だからこそ、私は魔法を発動させる。
「全てを壊す波動。これは、地を震わし、粉々に砕くもの——— “破壊衝撃” 」
四大精霊は地を司る。
その全ての力を借り、私はカノンと悪霊に全力の魔法をぶつける。
私が創造した未完魔法の一つ。
魔法式は完璧だが使い手が存在しない精霊魔法。
《―――――――――――――――》
穢れた精霊から魔素を込めた振動により空間が揺らぐ。
そして、微かにだが、その場を動いた。
……でもね、遅い!
「グノーム、やってしまいなさい!」
『精霊使いが荒いデスね』
私のイメージをグノームが具現化させる。
地響きを立て、地面、壁が崩壊する。
そして、それはぐしゃりと穢れた精霊へと向かう。
だが、近づいた途端、地面の崩落が暗闇に飲み込まれていく。
少しばかり大きなクレータとなる地面の底は暗いまま変わらない。
だけど、少しばかり魔素の波動を感じる。
『閉じろ』
グノームの声に地面が呼応し、穢れた精霊とカノンを閉じ込めるように土砂が流れ込む。
まるで屋外の球場にドームがついたように、私たちの眼から見えない。
『崩れろ』
そこに追撃。
グノームが手を閉じると耳が割れる程の地響きが迫る。
先ほどまでとは比べ物にならない四大精霊の魔術。
それは魔法の数倍の規模の地面を下す。
先ほどまで見えた暗闇が消える。
……でも、遙か底から感じる恐怖は消えない。
まだ、底に居るのだ。
「どうすれば……。グノーム、どうしよう?」
『ここまで穢れると面倒デスが、これだけ広ければ……』
「グノーム?」
グノームが両手を地面に押し当てる。
小さな土山が渦を巻き、地面全体がうねりを上げる。
思わず、その場に倒れてしまいそうな程の震動だ。
『広がれ。女神様はその上に居るデス』
「あ、ありがとう」
グノームが目くばせするだけで、地面から巨大な石が膨れ上がる。
まるで巨人の手のひらだ。
壁が崩壊し、グノームの下に巨大な土が集う。そして、それは人の形を創り出す。
その姿がまるで、巨大な泥人形だ。
「泥人形? こんな大きいもの見たことがないわ」
無数に魔法があれど、ここまで巨大なゴーレムなんて見たことも聞いたこともない。
魔法では到達不可能な境界線。十中八九、魔術の類でしょうね。
『押しつぶせ』
グノームの指示に従い、泥人形の巨腕が地面へと迫る。
地面が勝手に広がり、巨腕が周辺の土砂を吸い込み、底へと押し寄せる。
数トンはありそうな物量が穢れた精霊の暗闇に吸い込まれ、魔素が爆風のように広がる。
『これは辛いな』
グノームの言う通り、泥人形の巨腕の先が崩壊していく。
その度、修復していくが、膠着状態だ。
そして、魔素のながれを見るに、いくら四大精霊といえども、限界が来る。
泥人形が崩壊し、穢れた精霊の全方位から押し寄せる。
けれど、それは意味がない。
触れるや否や消失していく。
「やっぱり、無理よ。あんな防御術式に効果がない」
『そうデスね。デスが……とらえた』
「何を言って————」
——————————⁉
気付くと、そこには少女が居た。
俯き顔色は見えない。けれど、その姿は私のよく知る少女だ。
な、なにが起きたの?
『さすがに疲れたデスけど、これで何とかなるデスかね』
「どうなったの? あんなに分厚い暗闇が消えた、魔術で払ったの?」
『簡単な話、飛ばしただけデスよ』
その言葉を聞いて、思い出す。
私の魔法が消失したときにグノームが言った言葉を。
“”———— —— —
『飛ばしただけデスよ。遙か底に』
「飛ばす?」
『ええ。僕の魔法でチョチョイのチョイ、デス』
「遙か底に穢れた精霊の闇だけを飛ばした……」
口にするのは簡単だ。だけど、アレだけ広範囲の呪いのようなものを飛ばすなんて、とても信じられない。
そもそも、グノームが使える魔法にも思えない。
「貴方、本当に何者?」
『僕はグノームだよ。女神さまのよく知る。それより、いいのデスか、チャンスデスよ』
「そうね。……話してくる」
斜面を滑り降り、カノンの前と降りる。
先ほどまでの暗さは感じ取れない。
でも、彼女の奥底で恐ろしい魔素が揺れている。
「カノン、話をしましょう。私とあなただけで」




