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39話 覚悟の日ってね

人を殺したことはない。

それは前世から続く、日本人としての私の根本。

それが覆されたとき、私はきっと壊れてしまう。


人殺しのレッテルを張られ、愛する妹から嫌われるのは正直怖い。

けれど、今ここで逃げ出そうものなら、一生後悔することになる。

それが分かるからこそ、私は覚悟を決めた。


あの子を殺すかもしれないのに、私は魔法を発動させた。



精霊“ノー”は息を呑む。

目の前で協力関係を結んだ、彼女の姿は堂々とし、今も昔も変わらない。

それ程に、洗練された魔法の数々。


きっと、彼女は僕の知る彼女ではない。

でも、僕は彼女を知っている。昔からずっと、待ち続けていた。

だからこそ、協力をすることに意義はない。

あるとすれば、今にも泣きそうな表情を浮かべながらも、広範囲殲滅魔法を発動しようと宙に魔法陣を描く姿だ。なぜ、そこまで苦しい思いをするのか理解できない。人はいつか死ぬ。それが早いか遅いか、精霊である僕からすれば些事なことだ。


でも、彼女は別だ。

もし、彼女が死ぬつもりなら止めようと行動するのだ

それが僕の役目なのだから。だけど、それは意味をなさないこともわかる。

だって、唇を噛みしめ、苦々しくも前へと進む彼女を止める権利は僕にはない。

悔しいけれど、僕と彼女は今日が初対面なのだから。


女神様を語る彼女、それはかつて見た姿と同じで、僕はきっと……。




ノーが黙ったまま、私を見つめている。

協力関係を結べたのはよかったけれど、どうしようかな。


私が知る限り、広範囲殲滅術式と呼ばれた魔法はいくつかある。

けれど、それを迷宮内で使えば、あたり一面丸ごと吹き飛び、崩壊する。

それでは、意味がない。一瞬だけ助けて、あとは丸ごとお墓になりましたなんてね。


だからこそ、私が苦手とする精密制御をノーにしてもらう必要がある。

瞬間移動なんて、明らかに神の次元の術式を使うノーの力を借りれば、どうとでもできそうだ。


でも、ノーは黙ったまま動かない。眼は私をみているのはわかるが、何の感情も見えない。

ただ、ボォーとみているだけ。

まるで、微精霊のように存在が希薄に思える。


「……ねえ、貴方の力を貸してくれるのでしょう?」

『…………』


沈黙が続く、だが小さく頭を振る。どうやら私の声は聞こえているみたいだ。

であれば、今は信じるしかない。


「私が今から使う魔法、その全てを制御しなさい」


両手に魔素を広げ、指先に系統ごとへ変換する。

炎、水、土、風、光、闇。それに無系統を含めた、7大魔法。

その中でも、系統の最高位術式とも呼ばれる精霊王固有の魔法。


その一つを顕現させるべく、手にした魔力を集める。

これでは、地上に戻るのに苦労しそうだ。でも、精霊ノーが力を貸してくれれば、なんとかしてくれると信じておきましょう。


「之は大地を揺るがす契機。

無邪気な悪戯精霊、偉大なる精霊グノームの名において

地響きを鳴らし、踊れ踊れ。

雷鳴のような地響きは其方を大地の檻に封じ込め、

衝撃を以て、我が運命を阻む悪霊を撃ち砕く

——【グノーム・グランド】」


詠唱が永い程、魔法は高威力へと換る。

私が発動するのは、大地の精霊の中でも一際存在が大きく、四大精霊とも呼ばれたグノームの固有魔法。

人の身でありながら、精霊を模倣して創られた魔法の数々。その中でも別格な術式。

それを、地の精霊と契約していない私が使うのは自暴自棄ともとれる程、危険な行為だ。


もし、ここが地上でフィアナやレイフォード様の力を借りることができれば、考えることもなかったでしょうね。

でも、ここには私しかいない。私しか、あの子を救えない。


だったら、私は自分の命を代償にしてでも、あの子を救うために前へと進むでしょう。

——だって、この世界は私の心の拠り所。

たとえ、魔界の少年に会うのがゴールだとしても、それ以外がどうでもいいとは思えない。

——ああ、私はこの世界を愛していたのね。


『準備はいいよ』


精霊ノーが私の魔素を絡めとり、爆発しそうなほどに広がった魔法を封じ込める。

それは、カノンへと突き進む。

暗闇が侵食し、淀む空間を私の魔法が押し通す。

気付いた悪霊はカノンを通して、魔力崩壊を起こさせようと試みる。


私一人なら、緻密制御が崩れ、魔法は消え去った。だけど、私の隣には頼れる精霊が居る。

私のことを女神だと勘違いしているが、今は最後まで信じるしかない。

たとえ、この後、バレてしまうことになろうとも、今はカノンを護る。


「喰らえ、全て崩壊してしまいなさい」


地面が揺れ、カノンの居る場所を覆い尽くす。

全方向から揺れ動く地面は、魔法操作されているとはいえ、魔素で構成されていない物理攻撃。ゆえに、レイフォード様の精霊王のように、術式を壊すことはできても、一度集約した物量を押し返すことは難しいはず。


地面を押し戻すためには、私が地上でかき集めた精霊たちと同等の力が必要となる。

それを成すには、精霊王と呼ばれた存在でもぎりぎりのはず。


だからこそ、アレがたとえ光の精霊王の成れの果てだとしても、戦意喪失してしまうくらいには消耗できるはず。

心配事があるとすれば、カノンを見捨て、悪霊が逃げることだけど。


『心配しなくても、あの子から逃がさないデスよ』


先ほどから感じる強い魔素の障壁。

それが隣に立つノーの仕業だ。いくら何でも桁外れな力の使い方に精霊王としての片鱗さえ見てしまう。


地面と魔素の檻に囚われた亡霊。

抜け出そうとしているのか、空間が揺らぎ、視界が淀む。

魔素が凝縮し、今にも爆発しそうだ。


「本気?」

『どうだろうね。でも普通、あんなに繊細な魔素とは関わりたくないデスよ』


ノーが否定する。

そして精霊からみても異常な光景だと告げる。

遙か底に閉じ込めたのにも関わらず、その恐怖は消えない。


「これでもダメなら、次は……」


だいぶ強力な魔法を使い、魔素は心もとない。

それでも、ここで気を抜けば地の底に倒れるのは私たちだ。

けれど、どうするべきでしょう。


「——炎よ、舞い上がれ。小さな灯は天より照らす。地に落ちれ“大火”(インフェルノ)


宙に描くのは炎系統魔法の一つ。

——大火(インフェルノ)


指先に灯った小さな炎に魔素を与え、瞬時に爆発させて解き放つ。

炎系統の最上位術である“フレア”とは異なり、これは暗殺用術式。

本当なら人に向けて使うことは許されないでしょうね。


今まで、敵対した際もこれだけは使わなかった。

だって、この魔法は干渉範囲が広すぎる。小さな炎なのに、体中の魔素が失われ、おそらくは周囲の魔素をも飲み込んで発動した。

ノーは何も言わないが、勝手に奪われる感覚はあるはず。


地上で使えば、微精霊から反感を買い、酷い目にあいそうですね。

まあ、魔法使いは全員ダウンするのですから、指名手配されることはないけれど。



ゲーム内では、無限増殖バグの一つであり、悪用魔法とも呼ばれていた。


効果は一つ。

小さな炎は周囲の魔素を取り込み、加速する。

ただそれだけ。


でも、これは決して止まらない。

術者が最初に固定したターゲットに当たるまで、魔素が切れるまで発動する。

故に、遠くから狙いを定め、後は待つだけで相手を確実に殺すことができる。


防御なんて無意味。

これは、敵対者の魔素ですら奪い取り、無力化する。

だからこそ、この魔法は開発陣を以てしても“死に神の一撃”と呼ばれた。


そして、対処するには同じ魔法を当てるしかない。お互いに魔素を奪い合い消失させる。

それに気づいたときには、次なるバグ技が流行り、そこまで危険視はされていなかった。


でも、この世界では違う。

数年過ごし、元の世界で流行った魔法の数々。それらが存在していなかった。

無論、“大火”(インフェルノ)でさえ、|この世界には存在していない《・・・・・・・・・・・・・》。


『……女神様、それはなんデスか? だいぶ、取られたデス』

「私の固有魔法(オリジナルマジック)“大火”(インフェルノ)。周囲の魔素で発動する魔法よ。……悪いけれど、勝手に使ったわ」

『それは別にいいデスよ。でも、忘れていませんか、女神様。この下に探している子がいるデスよ』

「ッ……!」


思い当たり冷や汗が止まらない。

失念していたでは済まされない。


「ッ……」


なぜ、ここに来たか。

それは弱体化した精霊を助けため。なのに、その最後の力を奪い取る可能性がある魔法を使ってしまった。これは失態では済まない。


同じ魔法を使えば、打ち消すことはできる。

けれど、先に放った魔法に追いつくには、時間もルートもない。これが人の目を避け迂回してあれば、直線ルートで追い抜ける。

でも、これは間に合わない。


『はぁ……。女神様、少し落ち着くべきデスよ。僕がいなかったらどうなっていたことか』

「えっ……? 貴方、何をしたの?」


突如、魔法式が乱され崩壊したのか、感覚が切れた。

敵に当たった感覚はない。むしろ、打ち消されたように感じる。

でも、この世界で使えるのは私だけのはず。


『飛ばしただけデスよ。遙か底に』

「飛ばす?」

『ええ。僕の魔法でチョチョイのチョイ、デス』



遙か底に転移させたと精霊“ノー”が告げる。

確かに、遙か遠くであれば、私の魔法領域から抜けるでしょう。

でも、それは遙か遠く。言葉以上にその発言は重い。


ノーが飛ばした場所とは、どこでしょう。



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