38話 協力関係ってね
悲鳴が聞こえた。それはよく知る子のもので。
酷く怯え、世界に一人取り残された感傷のように思えてしまった。
それ程に、酷く悲しい思いをしたのでしょうね。
私がかけた魔法。それは、誰もが持つ心の空白。それを表面に引っ張り出すものだ。
人は、記憶を持つ。けれど、それはいつの間にかに底へと沈み、日を浴びない所まで流れる。
これは、その隙間に問いかけるもの。
「私が持つ、貴方の記憶。けど、それは貴方も同じ。だから、聞いてあげる」
今のフィアナには声は届かないでしょう。
声が物語る程に、その悲鳴には絶望が閉じ込められていた。一人でこの世全ての苦しみを背負った少女。そう、亡霊に思い込まされている。
「貴方にとって、一番大事なものは何かしら」
絶望の沼に引き込まれた少女を必死に救い上げるのは、私の役目ではない。
そんなの、フィアナが言われるまでもなくしてあげる。
あの子の心を支え、未来へと進むにはレイフォード様の差し出す手で十分。
なら、私にできること。それは、何なのでしょうか。
攻撃魔法に特化した私が与えられるものなんて、想像もできない。
だから、私は貴方を救えない。
だからこそ、破壊王と呼ばれた私は貴方を壊す。
「聞こえていなくてもいい。だけど、私は貴方に本当の絶望を与えるわ」
強い絶望に追い込まれた?
酷い光景に恐怖して動けない?
「……そんなこと、私には関係ない話。だって、ここに来たのは精霊を助けるため」
《―――――――――――――――》
闇の底から、震動が轟音となって迷宮内に木霊する。ただの空気の揺れだけではなく、その全てに魔素が込められている。
あの子の絶望が周囲に拡散し、駄々をこねる幼子の心にように、反響する。
酷い癇癪だ。それを誰も救うことができなかったのでしょう。
ゲーム運営並びに開発陣。
彼ら彼女らは、元の世界でこの少女の運命をどう創り出すつもりだったのか。
ゲーム内では、私が悪役として追いやられた。そこに、フィアナの姿はない。
いつも、幸せそうな一枚目の中に映っていた。
だけど、それが本当に幸せなものであったのか。
それが勘違いだったのだと、今は心の底から思う。
ただ、ゲーム内では裏世界を描いていなかっただけなのだ。
人の幸福のみを表に映し出し、人々の絶望は地の底に追いやった。
ただ、その一部がヴァーシュピア・レミリアに投影されていたのだと。
「人の幸せ。貴方は何を願うのかしら」
私が欲しいものは、悪魔の少年と出会うだけ。
その時、私の本心を伝えられれば、最高でしょうね。
ゲーム内では、声一つ付かず、メモ書きでしか、本心を読み取れない少年。
その少年に、ただ一言伝えたい。
「……貴方にも幸福を願い、手にする権利があるわ。何もかも信じられず、其処に閉じこもるかつての私のようにしていても、意味はないわ」
思い出したくもない過去の記憶。
それを塗りつぶすように、この世界に魅了されたのだ。
だからこそ、私が大好きな世界で苦しむ姿を見ることはしたくない。
「……やっぱり、私に交渉なんて向いていないわね。……フィアナ、いえ、亡霊! あなたの存在は邪魔よ。全てを壊してあげるわ。二度と、顕現できない程に!」
微かに聞こえていた泣きじゃくる声。それが途絶え、闇の底から別の声が聞こえる。
それはカノンに似てはいるが、普段のあの子とは正反対だ。
『フフ、フフフフフフフフフフフフフ』
直接脳内に響くその嗤いは絶望そのものだ。
何かも投げ出した彼女が最後まで縋り、信じようとして、裏切った亡霊。
その一端が、造りだした音でしょう。
少し聞くだけで、身体がゾクリとし、身の毛がよだつ。
それは、精霊王にも引けを取らない存在量だ。
精霊に愛された私ですら、聞いたこともない声。
精霊とは存在その物が真逆な亡霊の霊気が直接身体を締め付ける。
痛みはないが、体中の魔素を奪い取ろうと、干渉を掛けてくる。
『どうするデスか?』
「ノー、貴方はどうしてくれるのかしら?」
『僕は女神さまの指示に従うデス』
「そう。なら、力を貸して。私と貴方で、あの子の心を壊すわ――ッ!」
『……そこは助けるデハ』
ノーが首をかしげ聞く。
だけど、これはあの子を取り戻すために、全てを壊す物語だ。
だからこそ、合っている。
私はあの子の心を壊すのだから。




