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33話 迷宮回廊ってね


「精霊の国ですか。それにしては、他の精霊は見えませんが……」

『ここは入り口なのだ。だから、ここには、ぼくしかいないのデス』

「そうなんだ」


安心しました。狂った精霊が大勢押し寄せてきたらどうしようかと本気で心配していましたので。でも、そうするとカノンが聞いた声はどこからでしょうね?

勿論、目の前の精霊が嘘をついている可能性もある。

だけど、私に嘘をつく理由が見当たらない。私が精霊攫いであれば最上級の警戒をされてもおかしくはありませんが、見た目は普通の令嬢ですからね。

これでも“遠目から見れば大天使”と呼ばれたこともありました……ええ、過去です。

数年前の話です。最近では、“破壊神”とか“天使の姉”とかに変わりました。


私としても、今の方が気楽ですが。

——話がそれましたね。


「そう。私の親友が力から泣き声が聞こえてくると断言していたのだけど、それも知らないということ?」

『うん。仲間が泣いていたら流石に分かるのデス』

「そうなの? 精霊って、他の存在に対して興味を持っていないのかと思っていたわ」

『存在は分かるデスよ? だって、消えたら空間に罅が入るデス』


思わず本音で聞いてしまう。だが、精霊はあっけらかんと答える。

何も気にせずにたんたんと答える。

その姿はやはり少し怖い。まるで、感情がないロボットと話しているような感覚に陥ります。でも、相手は精霊。人とは異なる価値観を持っていても、なんらおかしくはない。

むしろ、人の考えを押し付けて、頭が狂っていると判断する方が変人なのかもしれませんね。


それにしても、空間にひびが入るという話はどういうことでしょうね。

精霊が消えても、何か異常を感じたことはありません。

ですが、それは微精霊に近しい存在の話。


目の前のような、自我を持つ精霊の場合はそうなるのかもしれませんね。

レイフォード様の契約精霊が仮に消えたらとんでもないことになりそうね。


「それで、声を聞いたりはしていないのかしら?」

『知らないデスよ? ここは、ずっとぼくしかいないデスから』

「それはどれくらいかしら?」

『もう、分からないデス。数えるのは千を超えてから辞めたデスヨ』


千という数字。日にちだとすれば、少なくとも数年間は誰もここに来ていないことになる。

それであれば、カノンの話と食い違いがある。

どちらかが嘘をついた?


かの制があるとすれば、カノンが嘘をつく確率の方が高そうだ。なんせ、シルフィアという偽名の姿で私の前に現れたのだから。

だけど、ここに来たのは私によるものだ。カノンが魔法を使ったわけではない。

カノンの性格を考えると、不確定要素が多すぎる状況に身を任せるとは思えない。

むしろ、綿密に計画を立て、その上で行動するタイプね。


だったら、精霊が嘘をついている。

それとも、精霊が知らないだけで、実は別の精霊が存在する?

この迷宮はとても広い。だから、精霊が知らないだけで、別の部屋に居るかもしれません。


なんにせよ、あの閉じ込められた場所から移動出来たのは良いけれど、まだまだ先に進むしかなさそうね。

まあ、どちらにせよ、カノンと合流する為にも歩き続けますが。



「ねえ、ここから別の部屋に行くことは出来るのかしら?」

『ぼくと一緒なら、できるよ。どこに行きたいデスか、女神様』

「そうね。光の精霊と少女の存在を感じ取ることはできないかしら? 実は、この迷宮に私の親友が来ているの」

『女神さまの親友ですか? それは早く探さないとデス。少し、まっていてね』


精霊の身体が薄く輝く。

そして、光が全方位に駆ける。それは美しくありながらも、全身に冷汗をかいてしまう。

それ程までに桁外れの魔素の塊が通過した。一瞬に過ぎないにも関わらず、身体中が痺れ、その場に倒れそうです。


「これは、探索魔法ね。でも、ここまで大きいと対象を見ることはできないはず」


探索魔法は魔素の量を増やすほど、広範囲を見ることができる。

一方、強力な魔法を使うと、その反動が大きく、対象を見つけても、微かにしか存在を見ることができない。

だから、人探しは数十メートルスパンで行うのが常だ。


だけど今のは数キロにも及ぶ程の魔法。

だからこそ、本当に識別できるのか不安に思う。


『この迷宮には生物はいないデス。皆、凍ったデスから。だから、動く影があれば、それが女神さまの親友デス』


今もなお、氷結に閉ざされた黒影を思わず見てしまう。

やはり、これは。


『見えたデス。精霊と少女がいるデスよ』



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