32話 箱庭の鍵ってね
「世界の女神ね。そう。貴方はそう思うのね」
『はい!』
元気よく答える子ね。
姿は見えないけど。これは精霊かしら?
それにしても、世界の女神ってあれよね。世界の中央にある神大樹。そこに居るとされる全てを見通す存在。
その正体はエルフの女性だったはずだ。
かつて、世界を二分化した大災害を食い止めた英雄。だけど、力を使い果たして長い眠りについた。
それを知っているなんて、随分と長生きな精霊さんね。
だけど、何だか馬鹿っぽいわね。
レイフォード様の契約精霊とは大違いね。
「それで、貴方は何故、ここにいるのかしら?」
『女神様が目覚めるのをずっと待っていたデス。それがぼくの役割ナノダ』
「そう。つまりどういうことかしら?」
『ええと。つまり、女神様は女神様ナノです!』
はぁ、頭が痛いわね。
何を言いたいのかよく分からない。
世界の女神。
その役割は世界の危機を救う為の存在。
世界各地に隕石が多数降り注ぐ、バッドエンドでは、女神の加護により、全ての国が一時的に助かったという話が合った。
まあ、加護の効果が途絶えて、数年後には全ての国が滅んでしまうのですけど。
「そう。それで、私は何をすればいいのかしら?」
『こっちデス!』
「私、貴方の姿が見えないわ」
『そうなのデス?』
「ええ。この部屋は魔素が多すぎるわ。まるで、どこにも同じ存在が居るみたいね」
『凄いのデス。よく、分かるのデス。流石、女神様デス。コレで分かるデス?』
空間に渦巻いていた魔素が一か所に集中していく。その密度は普通の精霊とは比べようが無い。
「そう。それが貴方の姿なのね」
精霊として一人の少年が顕現する。
その表情は嬉しそうだ。
それ程に女神という存在が重要なのでしょうね。
『こっちデス!』
精霊が私を呼ぶ先、そこには何もない。
思わず、足を止めてしまう。でも、精霊は突き進む。そして姿が消え失せる。
権限を解いた訳ではなさそうだ。
「ええ……」
精霊が消えた方へと向かう。そして、謎の踏みつける感触の後、ひんやり冷たい。
周りを見ると、壁床一面が氷漬けになっている。そして、氷の下に何かが見える。
頭のようなもの、そして……
思わず、眼を閉じてしまう。
それ程までに醜悪な部屋です。かつて、何が起きたのか分かりませんが、強者が一撃で全てを氷漬けにしたような感じですかね。
私ですら、この規模の魔法となると、今持っている魔素を全て昇華させないと難しい。
それ程までに、ただの人間にできる芸当ではない。
では、誰が?
人ではない存在。魔王やエルフ王。それとも精霊?
『どうしたデス?』
「ここは?」
『ここは保管するための場所デス。ここで、ずっと維持するデス』
精霊の話す内容。最初は無邪気な少年だと思った。
けれど、これは……壊れている。
精霊として、自我が破損しているのだろう。
だって、大量の亡骸の上で笑みを浮かべる姿は死の神だ。
『どうしたデスか?』
どこまで計算しているの?
この無邪気な表情すら演技?
「なんでもないわ。それにしても、この氷は貴方の仕業?」
『? 違うデスよ。これは、アカがやりましたデス』
「アカ? それは貴方の知り合いかしら?」
『そうデス。他にも、ミドリ、アオがいるデスよ』
赤、緑、青の精霊など聞いたことはない。
一瞬、精霊王かと思ったが、三大精霊しかいない。
それであれば、大星精霊?
ゲーム内では、大精霊に次ぐ存在。
微精霊、精霊の上位存在だった大星精霊。
星座に由来する能力を持つ上位精霊たち。
その全てを覚えているわけもないし、真名とも限らない。
目の前の精霊が何を考えているのか分からないのですし。
でも、これ程の魔法の使い手である精霊が居ることは分かりました。
やっぱりただの迷宮ではなさそうね。
だからこそ、カノンが聞いた声が居る可能性も高い。
目の前の存在とカノンから聞いた精霊と同じ可能性も考えたが、陽気に振る舞うその姿は想像していたより違う気がする。
なんにせよ、この精霊を無視するわけにはいかないか。
「ねえ、貴方の名前は何て言うのかしら?」
『ぼく? ぼくに名前は無いよ。昔はあったけど、今はないのさ』
「そう」
『でも、友達はノーってよんでいるから、女神様もそう呼んでくれたら嬉しいな』
ノー?
英語のような響きだと思う。けれど、その意味が分からない。
こんなことなら、少しでも勉強しておけばよかったわね。
「ノー、聞きたいのだけどいい?」
『うん、何でも聞いて、女神様』
「貴方たちは、ここで生まれた精霊で合っているかしら?」
『ぼく? ぼくは、女神様の加護で生まれたよ? そんなことも忘れたの女神様?』
精霊を作る女神?
てっきり世界の女神はエルフを指すのだと思っていたけれど、違うみたい。
それなら、いったい、誰なのかしら?
「あと、もう一ついいかしら? ここは、どこかしら?」
『ここ? ここはぼくらの箱庭だよ? 精霊のための国だよ?』




