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3話 妹が魔女ってね

私には姉が居ます。

私より容姿端麗で誰もが姉さまを称えます。


「ほんと、私とは大違い」


ただただ羨ましい。

私より才能がある姉さまが――だけど同時に好きでもある。

こんな、才能無しの妹に対して優しく接してくれる。つい先日も、魔法で悩んでいた私にアドバイスをしてくれた。



『燃焼効率を上げるためには風を送るのがベストね。だから、風魔法と炎魔法を複合させるの。簡単でしょ?』



それに対して、私は頷くしかなかった。

あまりにも見ている景色が違いすぎる。私が数十年経っても理解できないことを姉さまはいとも簡単に言う。

だからこそ、戸惑う。

けれどその日は特に違っていた。

誰もが言葉を失ったのだ――魔界に行くと聞かない姉さまの姿に。







可笑しなことになりました。

私が思いつく最善の手、魔界に行くことを口走った途端に周囲の目が変わりました。

どうせ、いつか追放されるんです。それが早いか遅いかの違い。

けれど、これはゲームの世界を知っている私だから理解できること。

それを失念していました。

可愛らしい令嬢がいきなり敵国の王城に乗り込むなど聞けばそうなるのは当たり前なのに。

それすら気が付かないほどに、ゲームの世界にきて浮かれていたのかもしれない。

二次元で見た、キャラが目の前にいることに。

結論から言うと、幽閉状態になりました。

唯一の窓には鉄格子がガッチリと嵌められ、扉の外には数人のメイドが入れ替わりで見張っています。

それに、妹であるフィアナに至っては私のすぐ傍で本を読んでいる。

まさに、牢獄。


「はあ、可笑しな話ね」

「姉さま、私の魔法構築論で変なところがありましたか?」


と、思わずため息を吐くとフィアナが不安そうに私を見つめる。

手元にあるフィアナが考えた魔法論に不備があったのかといわんばかりだ。


「いえ、今の所は大丈夫よ。魔法式に不足しているところもあったけど、発動自体は影響ないから」


ゲーム内で数千もの魔法式を作り出してきた私にとっては、この程度の魔法など一目で不足分が見つけられる。

これらはゲームで、少年に会うために転移魔法を探すときに知ったのだ。


「フィアナの作る魔法式は美しさを重視しすぎよ。ここなんて、同じ意味が重複しているわ、炎も火炎も本質的な意味は同じよ。威力を使い分ける為なら使い道はあるけどね」



魔法。

その構築式は、日本語で紡がれる。

そして、その全ての魔法を知っているのだ。だてに数千回ゲームをクリアしたわけではない。

どれかの魔法が少年へのカギの可能性を捨てきれなかった私は全ての魔法を覚えた。

勿論、ゲーム内の話だが。

コンプリートした知識が今の身に全て受け継がれているみたいだ。

だから、フィアナが勉強中の魔法ですら、もっと簡略化できるのにと思ってしまう自分が居る。


「流石、お姉さまです。それに比べて私は……」


フィアナが悲しそうに下を見つめた。

だけど、後に聖女認定を受けるから心配など無用なのにね。


「大丈夫、貴方には私にはない白い光があるの」

「ありがとう、お姉ちゃん」


貴族らしからぬ発言だが、フィアナは気に留めない。

どうやらレミリアは貴族として地位はあるが、言葉遣いに気を付ける必要はないみたいだ。

普通に丁寧に話していれば、大丈夫かな。


「私、いつかお姉ちゃんに追いつくね」

「フィアナなら成れるわ、歴代最高の聖女にね」







レミリアとなり、一年が過ぎました。

その間、妹に魔法を教え続けていたら、いつの間にかに私と同じくらい凄い魔法使いになっていました。

それに、何故か魔女認定と聖女認定を妹が受けました。

聖女なのに魔女。

この二つがあることで、周りも対処に困っているようです。

当の本人は、『お姉ちゃんが敵対しなければ、大丈夫よ』と強気ですが……いえ、確かに今の妹を牢獄に繋げるのは私しかいないかも。

あの子って、弱い魔術なら打ち消すし――物理攻撃もバリア?で防ぐのよね。

チート令嬢ってまさにフィアナを言い表す為の言葉ね。



「……レミリア様、こちらです」



と、侍女の案内の先、そこに妹が居ました。

一年の間で、背は伸び、私とほとんど変わりません。この調子だと追い抜かれそう。

そもそも、ゲーム内でレミリアは156cmでフィアナは160cmだから当然だけど……

少しばかり嫉妬するなあ。


「久しぶりフィアナ、これお願いされていた魔導書よ」

「ありがとうお姉ちゃん、これで転移魔法の研究が進むよ」


大量のメモが壁中に張られています。

その中には、私ですら見たことが無い魔法もありました。

だけど、複雑に書かれている割に効果はしょぼい。既存魔法を改良していると起こりやすい重複個所も多い。これは改善できるなあ……


「これ防御魔法ね、術者の魔力量で強度が変わるっていうことは、フィアナが使えば無敵かしら」


私は防御魔法を使えない為、フィアナが羨ましい。

まあ、ゲームの設定だから仕方がないけど。

レミリアは魔力を放出することに長けている。だが、魔力を纏うことは不得意だ。

疑似的に体近くに魔法を重ねることで防御するのが限界だ。


「そうですよ、流石はお姉さまです」

「そうでもないわ。私は誰もが使える魔法は生み出せないから」

「何を言うのですか! お姉さまは、古の魔語を読めるじゃないですか。私にはとても読めません……」


――この世界には日本語という言葉はなかった。

平仮名はあるが、漢字という概念が無い。見たこともない文字――なぜか理解できる――が主流だ。それこそ、漢字に比べて各文字数が多すぎる。

だから、私が日本語で魔法を作っても、誰も中身を読めないし、理解もできない。

昔、妹に火炎と炎は同じといったが、それすら伝わっていないことを最近知った。

この世界では、炎と火炎は別の文字列で、本質的な意味が違うものと捉えられていることも。


――ゲームの開発陣曰く、“ゲームには登場しないがオリジナル言語を創ったよ。だけど、開発陣ですら理解しがたいので登場はしません”と明言していた。

恐らくはこれがその言語なのだろう。

どういう原理で、ゲームの世界に来たかは未だに分からない。

こちらが現実で、“鏡沙織”が居た世界こそが夢の中だったかもしれない。

それくらい、現実が分からなくなっている。

過去の記憶はある。だけど、それが他人のものだと日々思うようになっていく。

これは、世界の矯正力なのだろうか?

それとも、夢の記憶だから?


――唯一分かるのは、この世界には私の初恋の相手が居るということ。

そして、妹が敵対する可能性が高いということだ。

だけど、魔女認定を妹が受けた時点でゲームとは異なるストーリーだ。

勿論、隠しルートがあったという可能性や続編が出来たってこともありえる。


「八方塞がりね。何もか、分からないことだらけ。これで、あの方にお会いしてもいいのでしょうか」


思わず、声が漏れてしまう。

初恋の相手、あの少年に早く会いたい。

言葉だけじゃ、伝わらないなら、行動で示したい。

“私はカナタが好きです”――と。







妹に荷物を届けた後、王宮内の図書室に訪れる。

妹が借りたい本を探していると、見知った顔を見つけた。


「久しぶりです、レミリア嬢」

「はい、レイフォード様も本をお読みに来られたのですか?」

「いや、弟に頼まれて、な。英雄譚で面白いのが無いかってね」


レイフォード様。

ゲーム『悪魔の君に恋してる』では、不動の人気キャラだ。

王国内でも有数の貴族であり、次代の王に最も相応しいと称される王家の血筋。

だが、そんな彼が目の前に居るのに何も感じない。

……確かにかっこいいとは思う。ただ、それだけだ。オシキャラである“カナタ”程ではない。


「それでしたら、“泉の空”はどうですか?」

「レミリア嬢がオススメする本ならとても面白そうですね、それをお借りすることにします。いつも、ありがとう……ああそういえば、カノンが君を探していたよ。何でも新しい魔法を見てもらいたいそうだ」

「そうですか、カノンはいつもの場所ですかね?」

「ああ、どうせ寝転がっているはずだよ。全く、我が妹ながら……」


カノン。

ゲームでは、レミリアの親友として登場する。

貴族らしからぬ物言いで、敵は多い。だけど、私とは何故か波長が合う。

だからこそ、魔法を教えてあげるのだ――私が魔界に行っても自分の身を守れるように――

いつか訪れる、王宮テロにより致命傷を負わないようにする為に。

今思えば、レミリアが名家から這い蹲る原因の一つでもあったはずだ。

レミリアを疎む侯爵令嬢の取り巻きが流した噂“テロリストの手引きをレミリアが行った”

普段から悪役令嬢として名を馳せていたレミリアを疎む令嬢は数多く、必死に否定する彼女の言葉は誰も聞き届けなかった。

開発陣は何を考えて、あんな理不尽なストーリーを造ったのだろうか。

あの悲劇は防ぐしかない。

せっかく、魔女認定を防げたのだから――


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