27話 光の巫女ってね
「そうですか。そこまでお気づきになられるのですね」
長い沈黙の後、シルフィアが認める。
先ほどまでの焦りは感じ取れない。むしろ、清々しい。
「私が言うのもあれですが、あっさりと認めるのね?」
「そうですね。わたし、人を見る眼はあるつもりです。だから、初対面でも少し話せばどんな人か分かってしまいます。私の勘は当たりますよ」
「そうなのね」
「ええ」
少しばかり会話しただけ。
それでも言葉の端々から思わせぶりな発言を連発してくる。
人を見る眼、勘はつまり、精霊の眼のことだろう。
私でも感じ取れない光の精霊。それが、シルフィアに助言をしていると考えるのが妥当でしょうね。
彼女が信じる精霊が認めたから、全てを話す気になったのかもしれない。
「それで、どれくらい使えるの? 天変地異レベルかしら?」
「まさか、レミリア様ではありませんよ。常識レベルです」
「そう、それは私にとっての常識という意味で良いのかしら? それとも……世界?」
挑発的な問いにシルフィアは微笑みで返す。
その表情からは、何を考えているのか読み取れない。
先程とは一変した姿。
「それが、貴方の本当の姿?」
「なんのことでしょうか?」
都合が悪くなると誤魔化しに徹底とか、どこの政治家よ。
全く、質が悪い。それとも、これが彼女本来の素なのでしょうか。
私もフィナアの姉という立場にあった立ち振る舞いを求められ、お見せすることもある。
だからこそ、目の前でほほ笑む姿に無理を感じてしまう。
まるで、無理して無理やり感情を殺して、仮面を張り付けている感じ。
「……まあ、いいわ」
「ええと。いいのですか? わたしが聞くのもおかしな話ですが、普通は根掘り葉掘り聞きだす場面では?」
「だって貴方、口が堅そうだもの。ほんと、私の知り合いにそっくり。だからこれ以上は無駄だと分かったわ。それに、私にとって重要なのは、貴方が精霊を助ける気があるか、それだけですし」
「……変わった人ですね。変人とよく言われませんか?」
「物おじせず、よく言えるわね。私が普通の令嬢だったら、今頃ノイローゼになっているか、怒り狂って突飛ばすところよ」
「でもレミリア様はしませんよ。それだけは、分かります」
謎の信頼感を勝ち取ったようだ。
シルフィアの発言がもし公になれば、大炎上するでしょうね。
大貴族の令嬢に喧嘩を売るとか、そんな恐ろしいこと、王族でもしません。
まるで、全て計算尽くした上で、盤上の上で踊らされているみたい。
だけど、まるで友達と話すような感覚に心が落ち着いている。
転生して数年、可能な限り、フィアナの姉を演じてきた。まあ、素な姿でも、誰にも陰口を言われていないから、元々似ていたのかもしれないけれど。
それでも、本当に。
心の底から、本音をぶつけることはできていない。
だから、そうね。
久しぶりの本音の会話に心が舞い踊っているのかもしれない。
でも、今は非常時ですし、そろそろ消えかかっていますし。
「ありがとう。それだけ信じてもらえて嬉しく思います。それで、貴方は私にとって、好きな人、嫌いな人、どちらの立場になりたいのかしら?」
あえて、敵対っぽく聞いてしまう。
正直、光の巫女というステータスがストーリーにどう影響を及ぼすのか、分からない部分が多い。そんな状態で喧嘩を売るなんて、正直どうかしている。
でも、今ここで聞いておかないと。
二人きりで、本音で語れる機会は二度とこないかもしれない。
だからこそ、今ここで。
シルフィアの思想を全て聞き出した方が、今後に役立ちそうだ。
「敵、味方ですか。……そうですね、レミリア様が思う方で合っていますよ」
「そう……」
え?どっち?
敵?見方?
何だか、性格がゆがんだ回答をされました。
貴方の判断にお任せしますって、どこかのタレントが言いそうなセリフだ。
それじゃあ、どっちか分からないじゃない。
未だ、迷っているのに。
「そ、そうなの。へえ、そうなんだ。だから、そうしたんだ」
「……ッ」
思わず適当に相槌を打ち、返す。
だけど、シルフィアの眉が上り、警戒度が増した。
え? 何で?
「やっぱり知っているのですね……」
「ええ」
なにこれ?
何で、こんな心理戦みたいな感じになっているのでしょうか。
思わずドッキリかと思い、辺りを見回してしまう。だけど、私たち以外には人影はない。
まあ、ここでいきなり出てこられても困惑してしまう自身があるけれど。
だけど、私が有利みたいだ。
なら、このまま勘違いでもいいから、押し切る!
「シルフィア。貴方なら、分かるわね」
「そうですね。分かります」
苦渋の決断のごとく、シルフィアが首を縦に振る。
そして、顔を上げ、諦めの表情で私を見つめ。
「流石はお兄様の彼女さんですね。まさか、一目で見破られるとは思いませんでした。いつも、フィアナが話す内容が壮大なのも納得致しましたわ」
「ええと」
「聡明なレミリア様ならいつか、お気づきになられるとは思っていました。でも、こんなに早くバレるとは思っていませんでした」
何だか、理解できない話の流れだ。
なんの事でしょうか?
そもそも、お兄様の彼女?
私の好きな方は魔界にいるあの方だけ。この国に彼氏はいませんが。
「改めまして——リア姉さま。この姿でお会いするのは初めてですね」
シルフィアが指輪を外す。
すると、髪色が変色していく。
金から銀色へと。そして、緑の瞳は朱へと映る。
何度も見たことがある姿。
だけど、言葉遣いは違う。
だからこそ、気づけなかったのだろう。
「…………カノン」
「ええ。こんにちは。リア姉さま」
そこに居たのは私が良く知る相手。
妹のように可愛がっている女の子。
レイフォード様の妹である、カノンでした。
ええと、シルフィアとカノンは同一人物だった?
はい? 訳が分かりませんね。




