24話 逸れ精霊ってね
光の巫女。それはゲーム内では最高位の魔法使いとして描かれていた。
全てを虜にする微笑みで幾多のプレイヤーが心を奪われたものだ。
中には攻略できるのでは、と百合ゲーと信じて血の涙をながした漢も居たとか。
まあ、開発陣の後書きの内容だから、どこまで本当かは調べようがないのだけど。
出自はただの平民。
そのバックボーンは当然ゲーム内では描かれていない。
百合ゲーならともかく、乙女ゲーだからその深堀はない。だけど、あの開発陣なら想定していてもおかしくはないのよね。
ゲーム内ではフィアナの一つ先輩として登場していたから、私と同じ年齢。
そして、学院に入学することになるのでしょうね。
でも、フィアナ視点では、既に入学後。光の巫女と呼ばれていた。
その理由がこの先一年で起こるのだろう。
「レミリア様。どうかされましたか?」
私が貴族だと思い、ずっと敬語で話しかけてくる。
庶民からすれば、貴族に失礼があっては一族郎党皆〇しになると思っているのだろう。
私もゲームプレイ時にはそう思っていたのだし。
だけど、実際は貴族は平民のことを第一に考えていた。
どうすれば、よりより生活を送れるか、幸せになれるのか。
お父様は事あるごとに私に語ってくれたものだ。
「だからこそ、気に入らないのね」
「あ、あの。わたし、何かしましたでしょうか……?」
「その口調。そうして欲しいと誰が言ったのかしら?」
「ええと。でも、貴族様には失礼をするなんて、不敬罪だと両親が……」
「そう……今はただのレミリア。そう考えて。精霊を探すのに、そんな他人行儀な対応されたら見つかるものも出てきませんわ」
精霊は人の心に敏感だ。故に、オドオドしたシルフィアの姿を見て、離れてしまう恐れがある。それに、初対面とはいえ、ここまで怖がられてしまうと悲しいのだ。
いつか、魔界と敵対する運命であろうとも。
それでも、今はただの少女だ。
そして、運命は変えられるのだと、私が証明している。
「れ、レミリアさん。よ、よろしくお願いします……!」
「ええ。シルフィア。よろしく」
少しばかり恐れ多い感情が伝わってくるが、無視だ。
どうせ、少しすればクラスメイトになるのだ。今のうちに、少しでも仲良くなっておかないと、学院生活がボッチ生活になってしまう。
レイフォード様が居るとはいえ、流石にずっと一緒にいると変な勘違いをされてしまう可能性もある。それが火種になって魔女認定を受けるのだけは避けたい。
「それで、この辺りで声を聞いたのよね」
「はい。辛い、苦しい、助けって。あと、怖いって泣いていました」
「その声は今は聞こえていないのよね。それって、いつから?」
「ええと……。レミリアさ、さんに会う少し前です」
それなら遠くに逃げた可能性は低い。
隠れたか、それとも……
「少しばかり、魔法を使う必要があるかしら……」
「えっ……?」
手のひらに魔素を込める。
そして、周囲に拡散させる。魔素に微精霊たちが反応しているのか、空間が揺らぐ。
けれど、精霊のように干渉力が高い存在はいないのか、木々のざわめきや突風は巻き起こらない。
だいぶ、精霊の力が弱まっているのだ。
精霊の消滅。
その可能性に思い当たる。精霊といえ不死ではない。
力を使いすぎれば、魔素が失われ、長い眠りにつく。そして、二度と目を覚ますことは無く、自然に還る。
「ねえ、シルフィア。貴方は魔法を知っているのよね……?」
「は、はい。精霊騎士と呼ばれる方々のように、凄い力をもつ神の遣わした高位存在ですよね? 友達が言っていました」
「そう」
その友達、何者よ。
私が思う以上の情報を語られ、思わず困惑した表情を浮かべてしまう。
その情報、全部正解じゃないの。
ゲーム終盤明らかになった情報を知る人物なんて限られる。
それはつまり──あの方と知り合いということになる。
何て、面倒なことでしょうね。
「それなら、伝わるか。シルフィア。見つけたのは貴方よ。だから責任を負う覚悟はあるかしら?」
「か、覚悟ですか? それはどういうことでしょうか?」
「おそらく精霊は消えかけているわ。その理由は分からないけれど、それでも、このままだとそうなる」
「そんな……」
「だけど、貴方なら救えるかもしれないわ」
だって、貴方は光の巫女と呼ばれる回復魔法の使い手として、
歴史に名を馳せるのだから。
◇
全てを説明する間、シルフィアの表情はコロコロ変わる。
そして、最後は力強い瞳を見せてくれた。
「準備はいい?」
「はい。レミリアさんの魔素を私が制御してみせます」
方法は簡単だ。
この辺りに居る精霊と契約してしまえばいいだけ。
だけど、そうすると関係ない微精霊や精霊も呼ぶ恐れがあり、助けることができない。
精霊は他の存在にはあまり関心を示さない。故に、自重をしてくれないのだ。
全く、面倒な存在だ。人の心に敏感なら、少しは思いを汲み取ってくれてもいいのに。
──だからこそ、私が壁となる。
仮契約を私が、本契約をシルフィア。そうすることで、大量の微精霊と対峙することにはなるが、少し経てば解除される仮契約なら問題は無い。
仮契約後、本契約を私が結べばいいとシルフィアからは反論されたが、私の言い訳で何とか誤魔化せたようだ。
そもそも、本当に契約をすることは今の身体ではできないのだし、嘘ではありません。
「響け、我が名はレミリア・ヴァーシュピア──」
精霊に挨拶をするべく、魔素を空間に流す。
魔法として発動はしないよう、適当な魔法を考え、不発するようにしている。
だけど、長い間滞留すれば、大きな問題になる。だからこそ、早く見つけなければ。
──私の魔素を気に入ったのか、無限にも思える微精霊、精霊らが集まるのを感じる。
それに、身体中に小さな鎖が絡みつく錯覚さえ覚えてしまう。
これは、少し気分が悪い。まるで、私の全てを奪おうとしているように感じてしまう。
「レミリアさん、大丈夫ですか!」
「ええ、問題ないわ。少しばかり、相手するのに疲れただけ。……シルフィア、貴方が要よ。今のうちに、契約魔法を高めておきなさい」
「はい!」
これまで魔法を使ってこなかったシルフィアにとって、初めての魔法になる。
だけど、微塵も不安な姿は見せない。私が精霊を助けるという強い覚悟を感じる。
──それに、魔法式を噛まなければ、後は私が干渉して、発動させる。
失敗する可能性は限りなく低い。
「──────」
全ての感覚を周囲に広げていく。
──違う、違う、違う。
ひたすら、広げていくも見つからない。
何故、どうして?
「シルフィア、声はまだ聞こえないのよね?」
「はい。ずっと消えたままです。でも、少し揺らぐ感覚でしょうか? そんな感覚はずっと感じます」
広範囲を対象に収めたのに、見つからない。
それでも、反応があるとシルフィアは断言する。であれば、近くには居るはずだ。
空へと広げるしか……だけど魔素がもう……
「あのレミリアさん、地面に居る可能性はないのですか?」
と、予期せぬ事を口走るシルフィア。
地面、地下ってこと?
精霊が地下に居るなんて、そんな情報を見た記憶は無い。
地精霊ですら、地面付近に現れる。
精霊は暗い場所が嫌いだ。だから、地面の中のような、暗い場所にはいない。
でも、シルフィアはこう言っていた。
“怖い、暗い、助けて”と。
まさか──
「シルフィア。少しはなれて」
シルフィアが離れたのを確認して、跪いて地面に手を当てる。
「“響け”」
声の反響を地面へと向けさせる。
現実ではサーチに似た魔法。それを使い、地面の底を観る。
数メートル先には何もない。
けれど────
「──────見つけた」
遥か地面。その最奥部。そこに精霊のような存在を感じる。
だいぶ、力が弱まった精霊を。
「でも、ここは一体……」
地面に居る可能性を考えていたが、実際には違った。
なんせ、精霊が居るのはただの地下ではない。
巨大な空間。
まるで、地下迷宮のような広大な空間が遥か地面に広がっていたのだ。
そこに、精霊は居る。
「あの、どうしましたか?」
「この地面の最奥部。そこに、迷宮のようなものが広がっているの。そこに精霊はいる」
「そ、そんな……」
シルフィアが絶望した表情へと変わる。
確かに、数十メートル地下深くに行く方法はないだろう。
行く必要があるのであれば。
「そんなに悲観的になる必要はないわ。私を誰だと思っているの。聖女の姉である、レミリア。世界最強の魔法使いよ」
自分自身を鼓舞し、体内の魔力循環を高める。
その反動で、仮契約が消えかかる。
だけど、その前に。
少しばかり、力を貸してもらおう。
「“エレメント・エンドレス”」




