2話 魔女認定ってね
続けて読んで頂きありがとうございます。
魔女認定。
それは奇跡と呼んでも差し支えない程に稀だ。
条件はとても厳しい。
一つ目、貴族の血筋であること
二つ目、魔法適正が世界でも有数のトップであること
三つ目、全ての魔法適正があること
四つ目、攻撃魔法しか使えないこと
五つ目、女性であること
この全てを満たす必要がある。
一見すると、厳しい条件だ。だけど、この身は全てを満たしてしまう。
貴族だし、魔法適正が歴史上の英雄に引けを取らないし、全ての魔法を使えるし、攻撃魔法しか使えない。
それが、主人公の姉だ。
そして、攻撃魔法に至っては数百人にも及ぶ魔力と並び立つ。魔術防壁というカギが無ければ、どちらが魔王か分からない。
だけど、欠点があったはずだ。
確か、使いすぎると、体中から炎が走り燃えてしまう。
それこそ、火だるま——思わず、前世の死に際の光景が脳裏によぎる。
あれは、思い出したくもない。
とりあえず、何でゲームのキャラになってしまったかは分からない。
もしや夢を見ていると思ったが、冴えた思考を通してみた光景はリアルだ。
とても、夢の中とは思えない。
とりあえず、こちらで生きるしかないのでしょうね。
元の世界に帰れるかしら————まあ既に身体は燃え尽きているかもしれないけど
◇
豪華絢爛な白亜の城。
それがレミリアとフィアナが住まう豪邸です。使用人は数十人雇う程には裕福な貴族でもあります。王立国家ユユイに住まう民を取りまとめる貴族の中でも有数の名家。
私が転生したレミリアの肩書は重圧です。
これがゲームなら、好き勝手に城を歩き回り物色するのですが。
「レミリア様、おはようございます。本日の日程ですが——」
傍付きの少女が丁寧に本日やるべきことを伝えます。
手元の手帳を見ると、細かい文字がびっしりと埋められています。
「ああ、パス」
「御冗談を……冗談ですよね? えっと、え?」
「半分はそうかも……ああそうだ、魔法の訓練は省いておいていいわよ」
「ええっと?」
私の発言を聞いて、少女は目を丸くします。
手帳に書いてある魔法は初歩の初歩。今の私には幼稚すぎる。それこそ、5時間も練習するなんて馬鹿馬鹿しい。
「その魔法なら全て使えるの——だから、不要よ」
「本当ですか? レミリア様が天才であることは十分に理解しておりますが——初めて魔法を使うのですよね?」
あれ?
レミリアって、魔法の天才よね?
てっきり、全ての魔法を扱うことくらい知られていると思ったのに。
「魔法って、これよね?」
人差し指を空中に走らせ、とある魔法式を描きます。
魔力で紡がれた糸は地に落ちることなく、その場で輝きます。
「“フレア”」
糸に強力な魔力を込めます。
天に輝く太陽をモチーフにした火炎球が浮かび上がり、周囲が仄かに暖かくなります。
「た、太陽……!」
「“フレア”——手帳に書いてある、炎系統の最上位術よ……正直に言って、その程度の魔法なら学ぶ必要が無いわ。そもそも、そこに描かれている魔法術式には無駄があり過ぎる。この燃えるって言葉を、火炎にするだけでも効率化されるわけ」
だてにゲームで数千もの魔法を作り出した訳ではない。
ゲーム開発陣から“廃魔女”と呼ばれていたのだ。それこそ、ゲーム内の新規魔術として数百個増やすことに成功している。
思えば、人工知能が作り出したUIの一つ、“術式解体”による魔術の創造が出来たのは斬新だったなあ——まあ、それでも転移魔術は無かったのだけど……
「お、お嬢様……天才ですか?」
「——今頃知ったの……? だから魔法講義はキャンセルしといてね。私、他にやることがありますので」
魔界に行くためには、“竜の滝壺” “天空の豪雨” “地の轟音”と呼ばれる迷宮を通る必要がある。ゲームでは魔王自らレミリアを引き取りに来たため、簡単に通れた。
だけど、自力で通るとなると、不可能に近い。
どれも令嬢一人で通れる程に優しくないのだ。
だからこそ、転移魔法で一瞬にして行こうと誰もが考えていた。
——まずは図書館で情報収集ね
この世界の魔法を極めるとしましょうか
◇
傍付きに案内されたどり着いた先。
そこには、学校の図書室ほどの空間が広がっています。私の背の何倍もの本棚がずらりと並び、そこには魔術書が所狭し鎮座しています。
「これは壮観ね……ゲームだと、一枚絵しか無かったけど、実際にはこんなに広かったのね……ただ、探すのは骨が折れそうね」
「——レミリアお嬢様、何かお探しですか?」
と、傍付きが訪ねます。
特に目星を付けてはいませんが、やる気に満ち溢れた彼女を無視するのも可愛そうですし。
「そうね、星雲魔術に関する書籍をこのテーブルに集めてくれる?」
「星雲魔術ですね、分かりました」
星雲魔術。
“天空の豪雨”を通る際に、役立つと開発陣が初期のインタビューで答えていた。
何でも、星雲と呼ばれる、幻想的な雲々を払うのに使えるらしい。
「星雲ね——この世界にも、同じような星々が広がっているのでしょうか……?」
太陽は同じ。
だが、月、火星といった惑星があるのか分からない。世界が違うのだ。星座ですら、呼び方が違う可能性がある。
なんせ、オリジナル言語をゼロから造った開発陣だ。その程度の一つや二つ、何も考えず適当に設定を与えてそうだ。
「星雲って確か天体よね、チリやガスが集まってできた……」
かつてネットサーフィンで集めたぼんやりとした知識を思い出す。
だけど、詳細は思い出せない。
そもそも星々に関する魔法って少ないのよね——フレアやムーンの他に何があるのか、私ですら見つけられなかった
——とにかく、まずはこの世界を知ることから始めよう