17話 高位精霊ってね
なんだかんだ言って迷宮攻略から無事に生還し、数日。
私とフィアナは王城へと招かれました。
いつもなら、カノンのお誘いですが珍しいことにレイフォード様直々です。
何を考えているのか分からないけど、フィアナも一緒だから恋愛とは無縁だと思う。
おそらく、迷宮での出来事の話かしら。
「姉さま。この前の大精霊様の話ですが、本当に外交に同行させるつもりなのですか?」
「ん? ああ、その話ね。それなら、たぶん問題は無いと思うわ。今の帝国を見て、心が動かされる程に酷い有様ではないでしょうね」
「それは、そうかもしれません。私たちの国を頼らなければ、やっていけない程に大精霊様の呪いが強かったのですね。ですが、今の帝国がそのことを知っているのですか? もしも公になれば、反乱がおこる可能性ですらありえます」
大精霊が残した負の遺産。
それは、数百年数千年経っても残り続けている。
私たちですら、魔法を使えるは微妙だ。全力の私の攻撃がどれくらい弱体化するのか。
それは興味がありますね。
「まあ、最悪の場合、私が抑え込むから心配しないでいいわ」
「相手は大精霊ですよ? 姉さまのお力は分かっていますが……」
「帝国に行かなければ問題ないはず。それに、その時はフィアナ、助けてくれるでしょ?」
「当然です。姉さまが戦うと決めたのなら、どんな相手でもお手伝い致します」
強い決意をフィアナから感じる
そんなに私が頼りないのかしら?
確かに才能はフィアナの方が上ですし、私と違って、守護の力はすごいけど。
……違うか。
私のことを心の底から心配してくれているのだろう。
殺し屋と戦闘中、最後まで私を護ってくれた。それ程に、私のことを強く想ってくれるから。
「——ええ。その時は、お願いするわね」
「はい。お困りになったら、いつでも声をかけてくださいね。私は、お姉さまの妹なのですから……なんでも相談してください」
優し気な声は聖女に相応しく、私の眼に映る。
私の行動で、聖女と魔女、両方受け取ってしまったことを謝罪するべきなのに、真実を知らない妹は優しく接してくれる。
もし、私のせいだと知ったら、どんな行動に出るのだろうか。
糾弾……はしないだろう。それくらい分かる。
貴方が魔女になったのは、私が魔女認定を受けなかったから。
その事実を墓まで持っていくかは、まだ分からない。
それに、ゲーム内の出来事など知る由もなく、私から話しても、心労を和らげようと気遣ってくれたと思うのかもしれない。
だからこそ、少しでも迷惑をかける訳にはいかない。
――フィアナには幸せに過ごしてもらいたいから。
不運な運命になんて、姉である私がさせない。
「——レミリア、こんな所に居たのか。来るのが遅いから事件にでも巻き込まれたのかと思ったぞ」
「レイフォード様、本日はお招き頂き、ありがとうございます」
少しばかり、長話が過ぎたようだ。
レイフォード様本人が、門の前で出迎えてくれた。
本日のレイフォード様は、黒のジャケットを着崩している。
少しばかり、意外だ。真面目な彼が不良染みた格好をするなんて——。
一枚絵ですら、見たことがない。
「うん? ああこの格好か。これは、アイツが……」
「アイツ?」
「ああ。精霊に揶揄われることが多いのさ……今日は特にな」
私は精霊と契約していないから分からないけど、随分と悪戯っ子みたいだ。
もしも私と契約していたら、今頃決闘にまでこじれる可能性すらあった。
一応、心の広いレイフォード様だから、手を焼いているだけで済むのだろう。
――内心は怒り狂っているかもしれないけど。
「それで、精霊は今どちらに……?」
「ああ。今はカノンが相手をしてくれている。普段、協力してくれることなんてないのに。珍しいこともあるのだな」
「そうですね。カノンは自由奔放ですからね。でも、性根は良い子ですから、レイフォード様の気心を察してくれたのでしょうね」
「そうかもな」
何故だか、フィアナが小さくため息をついた。
聞こえないと思っているようだが、微精霊の魔法により、鮮明に聞こえてくる。
想い、好き、など意味の分からない情報が聞こえてくる。
今の話とは繋がらない。
けれど、想いや好きはカノンのことだろう。
それがどちらからの感情かは分からないけど。
「まあ、カノン相手には強気には出られないようだし、被害は出ないだろうさ」
「カノンなら、手懐けてもおかしくはないですね」
カノンは万物に好かれる魔素を持っている。
故に、ゲーム内では真の聖女と神格化されていた。
ゲームクリア後ですら、その正体は明らかにはならなかったが、何かスキルのようなものでも持っているのかもしれない。
それか、本当に神々の祝福があるのかも。
「それで、レイフォード様。本日はどのような御用ですか?」
「ああ。大精霊様について、な。契約者にはなったが、私は魔法を使えない。だから、今のお力がどの程度なのか。それを知りたくてね」
「それならば、バルディアと模擬戦闘でもすれば、直ぐに分かるのでは?」
「ああ。僕もそう思い、お願いをしたのだが……他国の王族に剣を向けることなどできない、そう言われてしまってはどうにも、な」
フィアナは当然ですねと頷く。
確かに、いきなり他国の貴族や王族に模擬とはいえ、戦えとは言われては困惑するだろう。
私ですら、レイフォード様と戦えと命令されても、断るだろう。
「それで……レイフォード様はどう考えられたのですか?」
私が考えていたことと同じことをフィアナが聞く。
少しばかり。いえ、見たこともない程、青ざめた表情を浮かべながら。
「ああ。レミリア、君に模擬戦を申し込む」
「はぁ……ええと、ええ? 本気ですか?」
「無論だ。僕が冗談をいうように思うかい?」
「ないですね」
あろうことか意味不明な内容を口走る。
それは、つまり。
「王族に剣を向けろと。そういう意味合いでしょうか?」
「まあ。そうなるな」
私が言わんとしていることを理解してくれたのか、声がしぼむ。
だが、眼はマジだ。
本気で、模擬線をしようとしている。
「つまりは、他国ではない。私なら、問題ないと?」
「ああ。この場には二人以外には誰もいない。だから、誰かに戦いを見られることもない。大精霊様の本気を見られるという訳だ」
な、なるほど?
何だか、何を言っても考えを改めることがないように感じる。
「分かりました。でも、戦うのはあくまで、大精霊様だけ。レイフォード様は安全な所から指示をするだけ。それならば、お受けいたしましょう」
これ以上の譲歩は無い。
王族に剣を向けるのはできない。だが、精霊ならば、多少は言い訳できるだろう。
その時は、レイフォード様直々に説明してもらえばいい。
「ああ、分かった。それで頼む」
迷宮では、負の感情に覆いつくされていた大精霊。
だが、レイフォード様と契約したことで、その枷は外れた。
冷静沈着な精霊と戦えば、すんなりと倒せないだろう。
だが、これは好機だ。
――いつの日か、帝国に牙を向くかもしれないとき、私が対抗できるかを知るチャンスだ。




