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10話 杖の勇者ってね

殺し屋との遭遇から一週間が過ぎた。

その間、特にこれといって事件も起きず、平和な日々だ。


「暇ね。フィアナは国民への聖女お披露目で忙しいし、王宮は厳重体制で、貴族ですら入れないし、暇ね」

「リア姉さま、それなら、外に出かけません?」


王城の一室、カノンの部屋でお茶会を開き、談笑していた所。

カノンは面白そうな噂を教えてくれた。


なんでも、殺し屋対策として、迷宮攻略者の一人、バルディアとアンリが訪れているらしい。

一人は、杖の勇者。もう一人はその護衛らしい。


「杖の勇者ってことは、外国の方ね。今の情勢で、国内に招きいれるなんて思い切った判断ね。カノンは何か知っている?」

「いえ、ほとんどお兄様が対応なさったので……私には早いと追いやられてしまいました。それに、一部の貴族のみが、来賓をもてなすようです」

「ああ、だから父様が忙しそうにしていたのね。ここ最近、ずっと王城に閉じこもって、何かしていたみたいだし」


てっきり、殺し屋の行方を追う為に奔走していると思っていたが。

実際には、その為の戦力増強のようだ。


「それで、バルディアとアンリでしたか? お二人とも、どんな方なのかしら?」


迷宮攻略者。

それは、ゲーム内で一握りの存在だ。かつて、とある勇者の一行が全迷宮を攻略したが、行方をくらまし、同時に迷宮情報も消え去った。

ゲーム内では、外国に僅かに居るとしか、記載されていなかった。


「バルディア様に関してはほとんど情報が無かった。分かったのは、とにかく強い人ってことかも。でも、アンリ様はたくさんあったよ」

「そうなの?」

「はい。アンリ様は、杖の勇者らしく、火炎魔法を扱う凄腕魔術師ってお兄様が言っていました。何でも、護衛のバルディア様よりも、強いとか」

「それって、護衛の意味あるかしら……?」

「そうですね。そして、変人ってお兄様は連呼していました。何でも、ゴーレムを愛していて、友達のゴーレムが居るらしいです」

「ゴーレムが友達って……確かにそれは変人ね」


やっぱり迷宮攻略者は頭のネジが数本足りないのかもしれない。

それでも、会ってみたいという思いはある。

その二人なら、私がいつか挑まなくちゃいけない三大迷宮の攻略法を知っているかもしれない。


「ねえ、カノン。その二人は今、どこに居るのかしら?」



王宮の離れの客室用の塔。

そこにカノンに案内され、訪れていた。


カノン曰く、ここにお二人とも休まれているとのこと。

そして、数日はここに滞在することになっている。


「ここね?」

「はい、アンリ様のお部屋こちらですよ」


少しばかり呼吸を整え、部屋の扉をノックする。

魔界に行く方法が聞けるかもしれないのだ。

心臓の鼓動が強くなるのが感じる。


「——はい、どなたでしょうか?」


白い肌の少女アンリが首を傾げ、訪ねる。

白いドレスをまとい、豪華絢爛とは程遠い、シンプルな格好だ。

だが、その佇まいは、仕草は令嬢以上、聖女のように思えてしまう。


「初めまして、私はレミリア。ヴァーシュピア家のレミリアよ」

「こんにちは。私はカノン。お兄様……レイフォードの妹です」

「レミリア様、カノン様、初めまして。杖の勇者のアンリです」


挨拶を済ませ、アンリに招かれ部屋へと入る。

王族の来賓なだけあって、私の部屋より豪華絢爛な部屋だ。

だが、そこまで散らかっていない。

几帳面な性格なのが見受けられる。


「ええと、それで私に何の用ですか?」

「アンリ様は、迷宮攻略者であっていますか?」

「アンリ様はやめてください。アンリで構いません。それで、迷宮ですか? 確かに私は迷宮攻略者と呼ばれていますね」

「なら、“竜の滝壺”はご存知でしょうか? 他には、“天空の豪雨”や“地の轟音”とか」


数千メートルを超える高峰によって、大陸はいくつも分断されている。

だからこそ、人類と魔族は戦争中ではあるが、大規模な侵攻などは起こらない。

だが、交流ができない訳ではない。


その移動手段の一つ、それが迷宮だ。

迷宮の最深部には、ポートと呼ばれる、移動用の魔法陣があり。

多量の魔力と引き換えに、ゲートを生み出すのだ。


迷宮攻略者は最深部まで訪れたものをいう。

そして、アンリはその一人だ。

ならば、何か知っていてもおかしくはない。


「滝壺、豪雨、轟音ですか。私は、行ったことがありません……すみません」


だが、残念ながら、アンリは知らないようだ。

そして、表情に出てしまったのか、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「こちらこそ、ごめんなさい。初対面の人に対して失礼な態度だったわ」

「でも、トオルなら何か知っているかも……」

「トオル? その方も迷宮攻略者ですか?」

「ええと、そうね。一応、そうかも……?」

「——リア姉さま、アンリ様、お茶をどうぞ」


いつの間にかに、カノンがお盆に美味しそうな紅茶を持ってきてくれた。

王族にメイドをやらせるって、バレたらアウトね。

まぁ、好意は受け取りますけど。


「ありがとう」

「ありがとうございます、カノン様……そういえば、滝壺は聞いたことがありました」

「ほんと? 何でもいいの。知っていることを教えて頂ける?」

「はい、竜の滝壺——赤竜の迷宮の最深部の場所です」


どうやら、迷宮の中の場所を指していたようだ。

そして、赤竜が居るらしい。


「赤竜ね。ただの竜とは違うのかしら?」


私が知っている竜と言えば、騎士の方々が空戦に使うのしか知らない。

大きさも数メートルと小型サイズだ。

だが、アンリは私の予想を裏切るかのように口を開く。


「はい、竜騎士が乗るのは違って、純潔の竜種です。大きいのだと、数十メートルにもなるくらい、成長します。そして、そのサイズを倒せるのは、英雄と呼ばれる精鋭です。私では、太刀打ちできない程の強さです」


やはり、一筋縄ではいかないようだ。

だが、三大迷宮の一つを知れたのは、好機だ。

今後、魔界に行く際に役立つだろう。


「あ、すみません。そろそろ、国王陛下に拝謁する時間ですわ」


どうやら、予定が詰まっている中、時間を割いてくれたようだ。


「アンリ、お話しできて楽しかったわ。また、迷宮についてお話を聞かせて頂けるかしら?」

「ええ、喜んで」


部屋を後にする。

カノンも別の用事があるらしく、私一人だ。

とりあえず、フィアナに会いにいこうかしら。


最強の竜種を亡ぼす魔法開発のために。


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