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1話 攻略不可ってね

「クリアしたけど、全然親密度上がらない……」


恋愛シミュレーションゲーム、【悪魔の君に恋してる】をやり込み裏ルートもクリアした。

だけど、何も変わらない。


「ぶっきらぼうなままだし、私のことも名前で呼んでくれないし、何、これ! バグ⁈ バグなのかなぁあああッッ⁈」


黒髪の少年は私が操作するキャラクターから去って行く。


「何、なんなの。君に恋してるって、恋して終わりってこと⁈ 誰得なの!」


目前のモニターを睨みつけ、運営に悪口を言うも当然意味はない。

むしろ、必死に貯めてきた経験値が嘲笑うようにも思えてくる。


「親密度これだけ上げたのに、まだダメなの。いくら親密度無限だからって、他のキャラクターだったら1000回以上はハッピーエンドに行けるのに」


ゲーム画面の右上にはこれまで貯めた経験値が金色に輝いている。

それは数年毎日数十時間注ぎ込んだ愛の結晶である。


「経験値が10万なのに、進展ないって、嫌がらせ!ー」


まさか運営もモブキャラとして登場させたキャラクターにここまで本気になる女性が現れるとは思ってない。

そもそも、経験値が10万なんてバグに近い。

本来は経験値100で自動的にハッピーエンドに行く。

だから運営にとって100以上親密度を上げるプレイヤーは想定外だ。

まさか一周で親密度が数ポイントしか伸びないおまけのモブのサイドストーリーなんて用意しているわけもなかった。

“つまりは、この女性

……何千回何万回このゲームを周回したのか

――ひくわ、流石に引くわー“


「もう一回だけ……。今度こそ裏ルートに行けるはずっ!」

“またもやガセ情報を信じてループする。


あまりにも愚かだと思う。

けど、ちょうどいい実験体かもなあ“


「もう無理、こんなアホ。私だったら簡単に落として見せるのに。ヒロイン失格よ! もういい」


女性はコントローラをクッションに投げ捨てその場を離れて行く。

神様を信じてない女性は哀れなことに気づかない。

全てを見ていた神が居たことも、そして哀れな実験体に選ばれてしまったということさえ。

何かも気づかず、この世界から焼失させた。

“痛みはあるけど、別の世界で生きられるからセーフだよね”

そう言い残す神の声は少女に届くことなく、虚空へと消えた。







眼が覚めるとそこは知らない部屋だ。

紅い絨毯がソファをグルリと囲むように轢かれ、宙を見上げると眩い虹色のステンドグラスが広がっている。

……。……?


「これって、なんなのかなあ」


子供のように拙い言葉が空間に響く。

知らない声だが、自分が言おうとした言葉と同じだ。


「炎はどこ、あれ……」


先ほどまで、私を苦しめ続けた炎は見えない。それに、焼かれた身体も傷一つ残っていない。

何かがおかしくも、ほっと安堵する。


「何がおきたのかな」


訳もわからず呆然としてしまう。

痛みが無いのは嬉しいからいい。

問題は目の前の光景が見た事のある場所とそっくりだからだ。


「ファナリア王女さまの、部屋にそっくり」


何千回もクリアした、恋愛ゲーム「悪魔の君に恋してる」とシチュエーションが同じだ。

確か、主人公が目を覚ますとこんな光景が広がっていて、その後は。


「――お目覚めですか、レミリア様」


10代前半程の金髪ロールの少女がドアを開き駆け寄ってくるのだ。

こんな風に涙を浮かべた少女が。


「……レミリアさま」


涙ぐみ、私に抱き着く少女。

その姿は一枚絵で何前回も見た絵だ。そして、言うのだ。


「私のせいです。私が、後ろから声をかけたばかりに……。すみません、レミリア様」

「貴方の誠意を受け取ります。ですから、頭を上げてください。それと、フィアナを呼んできてちょうだい」

「は、はい。レミリア様」


少女は私の命令に、急ぎ足で廊下を掛けていく。

この光景も知っている。

そう、ゲーム序盤。

主人公がベッドで寝込む光景。

まさにそのものだ。


だが、それを思うと主人公ではなく、姉のレミリアになったようだ。

――レミリア・ヴァーシュピアに。







これは“裏ルートだ”

“悪魔の君に恋してる”は乙女ゲームとして珍しいダブル主人公だ。

ざっくりと説明すると、主人公は姉妹。

妹ルートはいきなり聖女として目覚め、それを境に王族たちと夢のような日々が始まる。


一方、姉ルートでは勘違いの連続で魔女認定を受けてしまい、最終的に魔王の城へと追いやられる。そして、“魔族と恋している(笑)”が始まるのだ。

運営ですら、悪魔ルートに関して話の構成上作ったおまけにすぎないと公言している。

聖女の目的である、魔界の制圧。それの引き合いに出されるだけで、実際に主人公である聖女が戦争を仕掛けることもない。ただただ数百年後の子孫たちのエピローグで、滅びた国として1文出るだけだ。

それに悪魔ルートでは、容姿端麗な少年が一人しかいない。

他は動物が悪さをしましたと言わんばかりに、魔族っぽいキャラが大量に登場する。


勿論、恋愛感情を抱くこともない。

最終的に、聖女の婚約者である王子率いる軍隊に魔王は亡ぼされる。

どの選択肢を選んでもラストが覆ることはない。

そして、魔女認定を受けた主人公も一緒にやられる。

まさに、バッドエンド。

誰もが、馬鹿にしているのかと、開発陣に文句を言い続けた。

なぜ、悪魔の少年とは恋愛できないのだと。

それに対して、開発陣は“ルートは存在する”と言い切った。

そして、それが嘘だと私は知っている。

何千回と繰り返し、流石に悟った。このゲームに少年ルートは存在しない。

開発陣が追求から逃れるためにこぼした酷い嘘なのだと――

そして、それを知っているからこそ何もかも手遅れだ。

この後に起きる出来事を全て知っていてもどうにか……


……。私、私なら――どうにかできる――かも……?

何もかも、選択肢を知り尽くしている。

ハッピーエンド、バッドエンド全ての攻略は100%にした。

親友から、歩く悪恋辞典と称された程に熟知している。

それこそ、開発陣にすら劣らぬ程に。

今の私は未来を全て知っている。何を選べば、どうなるかそれが分かる。

そして、どの選択肢を通っても全てバッドエンドに繋がることも――

だけど、一つだけ手段があるかもしれない。

このルートの悪手は魔女認定を受けて、魔界に追いやられるからだ。

だったら、方法は一つだ。

決められた結末を逆手に取る。

――魔界に行くしかない。魔女認定される前に!

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