第87話
「でも、あそこは確か、今日緊急入院したって聞いたわよ」
「そうなんですね。じゃあ中には誰もいない?」
おばちゃんに緒方が聞くと、いいえ、と首を横に振った。
「ついさっき中から物音がしたから、きっと娘さんでもいるんだと思うわ。いい娘さんだもの。結婚して、遠くに行っても、母親が入院したって聞いたらとんで帰ってきたんでしょう」
「結婚してたんですか」
平塚が尋ねるとそうよ、とあっさり言った。
そこまで調べていなかったといえばそれまでだが、結婚の話は初めてだ。
「事実婚っていうのかしらね。籍は入れず、なんとなく一緒にいるっていうの?そういう関係なのが一人いるわ」
「その人の連絡先ってわかります?」
「いいぇ、だって会ったことはあっても、そこまで付き合いなかったからね。あ、でも確か外資に勤めているって聞いたわ」
「外資系企業ってことですか」
「そうそう、名前は思い出せれないけどね、ごめんなさいね、こんなのでもいいのかしら」
「いえ、一つ一つの情報は限りなく必要ですので。ありがとうございます」
平塚がお礼をいうと同時に、バンとひときわ大きな音が響いた。
どうやらドアを誰かが蹴破ったらしい。




