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第7話

「そもそも魔術ドラッグは、他の一般の危険ドラッグや薬物とは作用機序が異なるため、異なる経過をたどります。魔術粒子の相互作用により、神経系に影響を及ぼし、肉体は健康であっても精神に異常をきたすことが多いのがその好例でしょう」

 説明をしつつ、いつの間に作ったのか手作り感あふれる冊子を4人に配る。

「症状の進行としては、立ちくらみのように視野が消滅する初期から始まり、倦怠感が産まれる中初期。筋力の低下や直線が書けなくなるといった中期。幻覚が見えたり、多汗症、体臭異常、完全な無尿、それに稀に頭痛が現れる後初期。骨粗しょう症、全身皮膚の感覚異常、常時の頭痛、そして寝不足がみられる後中期。神経系の広範な異常、無汗症、突然の多尿、排泄系異常、それに魔術製脳軟化症が認められる段階となる後期。脳全体、特に言語野への障害がみられ、正常な会話が極めて困難となる末期。そしてこれらを過ぎると意識混濁を経てこん睡へ、こん睡状態に陥ると通常進行であれば、数時間以内に脳死と判断され、そこから24時間以内に心静止に至る死期が訪れます」

 根岸は冊子を元にしながらも説明をしていた。この間に、岸本は胸ポケットに入れている小さな携帯電話が鳴り、いったん退室していた。

「これって、市井の人が魔術ドラッグで中毒になっているかということも分かるということですか」

「ええ。ただし、確定診断をするためには、一通り診させてもらう必要があるので、その場で即決するということはできません。また、人によって進行はそれぞれになるので、一概にこうだ、と断言するということも難しいです」

「そうですか……」

 残念だ、という表情を平塚は見せていた。が、それもすぐに消え、質問をする。

「これほど何期というのが多いのも何か理由があるのですか。それも患者によるから、ということでしょうか」

「そのまえに、個人の進行度合いに応じて慢性、急性、劇症性の3つがあるというお話をさせていただきます。特に、これらの区別がつくのは後初期以降になりますが、その前からも異なることがあります。後初期を起点として、慢性は約1か月、急性は約1週間、劇症性は約1日で死期に至ります。また慢性と急性の間には亜急性と呼ばれる2~3週間程度の者もいます。劇症性になると、初期、中期、そこから後期や末期に一気に病状が進むことになります。急性の者は後初期はあっても後中期や中初期がない者も多く。亜急性であればおおよそ後初期や中初期がほぼ同時におとずれます。なお、中期に到達すると、通常であれば幾らリハビリをしても正常な生活への復帰は困難を伴い、後初期以降は措置入院の可能性が極めて高くなることでも知られています」

「クスリのために、何でもやるという状態ということですか」

「そういうことです。中初期の時点ですでに魔術ドラッグの常用性がみられますが、早ければ初期の時点でその快感や感覚を繰り返し欲するようになります」

「そのあたりは一般のドラッグと変わりないということですか。売る方からすると儲かる方が良いでしょうからね」

「そういうことなのでしょう。販売側の事由なんて知ったことではありませんが」

 あっさりと根岸は言い切った。それはさておき、といわんばかりの態度で、根岸はさらに続ける。

「魔術ドラッグには御札タイプと飲み薬タイプの2つがあるということは、先に述べさせていただきました。現在、判明しているのは御札タイプはSF(スリープフリー)SS(スペーススピード)、フラッシュと呼ばれる3つ。飲み薬はスペード、ハード、フリーフォール、ハンドル、コンドルの5つがあります」

「あの、一ついいですか」

「ええ、どうぞ」

 放出が説明中の根岸へと手を挙げつつ尋ねる。

「御札にしろ飲み薬にしろ、一般の人でも材料さえあれば作れそうなんですが。そうはならないのには何か理由があるのですか」

「まず前提として、飲み薬というものも、御札を飲みやすくしたという点で同じものだということをお伝えしておきます。御札を特殊な方法で効果を維持したまま固め、飲みやすくしたものです。そうでなければ、忌火で焼いて、その灰を清浄な水に溶いて飲むという手間暇をかけることとなります。御札の場合は貼ればいいんですが、それがはがれた際に効果が消えてしまうので、それを防ぐためにも飲み薬が開発されたと推定されています。この御札は、専用の紙を使い、魔術を込めたインクを用いなければ作ることはできません。公式に紙を作っているのは全国でも数社、関西地方だと大阪府に2社あるだけです。ただし、これらの魔術ドラッグに使われているのはこれらの会社以外が作ったものであり、さらにインクも私が調べた限りでは、全く異なるものでした」

「紙やインクに魔術粒子を込め、それに魔法陣を描いて、魔術を発動するということですか」

「その通りです。ですので、一般人ではできず、必ず魔術種族が作らなければなりません。それもかなり力が必要でしょうから、単なる魔術師ではできないでしょう。Cクラス、あるいはBクラスの魔術が用いられることが多いので、魔術大学院で修士号を修めるレベルの魔術師であることが求められます」

「なら高等魔術師レベルの力量を持っているということですね」

「そうです。魔術種族全体からみると、まだ絞れる方ではないでしょうか」

 根岸が意見をついでとして言う。必要な証拠はまだまだ足りないが、手がかりは取ることができた。

「そうだ。ここで魔術ドラッグの患者に話を聞くことは可能でしょうか」

「可能ですが、それには岸本先生の許可が要りますね」

 電話を終えて戻ってきた岸本へ、根岸が伺いを建てる。

「大丈夫でしょう。ただし、一般人のお二人にしていただきたい。今、魔術粒子に接触させないようにしていますので」

「分かりました」

 目配せをして、すぐに岸本について、2人は部屋を出る。残った2人は、ほかにも細々としたことを、根岸へと尋ねていた。

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