第54話
「それと、一つ伺いたかったのですが、奥さんの職業などは聞いたことがあるのでしょうか。こういうところに、ここに限らずだとは思いますが、連絡先や支払い能力の有無といったところは確認するところなのでは」
根来が引き続き前田に聞いていた。
「それは……」
ちらっと封筒を見て、前田は続けて答える。
「一応聞いております。今もなお必要なお金は定期的に振り込まれています。ですので、今も働いているのでしょう。聞いているのは、製薬会社の社員、研究者ですね、として働いているということでした。確か、がん関連の研究だとか。外資系の会社でしたね……」
言いつつ、前田は持ってきていた不透明なクリアファイルの中から、名刺を出す。名前はローマ字で、『Shisou Haruka』と書かれており、会社名は英語だ。『Tech Cabiner pharmaceutical Campany』と書かれている。
「テック・カバナー製薬ですか」
「ええ、そこでがんのための薬を開発しているという話でした。魔術薬らしいですね」
「旦那さんは、がんになっていたのでしょうか」
「癌は切除したと、カルテには書かれています。ただし、両親ともにガン、さらに言えば、先祖も4分の3はガンにかかっていたらしく、ガン家系だと本人もおっしゃっていました。あらかじめ予防的に魔術薬を使っていたこともあるでしょうが、そこまではわかりません。ただ、アルコール依存症は魔術薬のおかげか、今のところは依存心から脱しているところですね」
治療については、二人はよくわからなかった。分かったことといえば、彼もガンの要因を抱えているということ、外資で彼女は働いていたということだ。




