第51話
来たのはものの3分かからないほどの短時間だった。
「お待たせしました、どうぞこちらへおいでください」
首からネームプレートを紐でぶら下げた、初老の男性医師だ。近所で散歩していても会釈を交わす程度でそのまますぎていくような存在感のなさが気になるが、それなりに利点でもあるのだろう。名前は、揺れている名札のせいでいまいち読み取れないが、姓は前田だということだけは分かった。
「この部屋です。本人はもう少ししたら連れてきますので」
「ありがとうございます」
案内された先は、総合受付の近くにあった、関係者以外立ち入り禁止という札が掛けられた通路を通って4つ目に会った、応接室と書かれた部屋だ。殺風景に何もなく、向き合うように置かれた3人掛けのソファが部屋の中央で目を引く以外には、棚も観葉植物も、椅子すらもない。天井には伝統が埋め込まれており、ガラスで密封されているし、窓は嵌め殺しのようだ。伝統のスイッチすら見当たらないところを見ると、もしかしたら自動点灯なのかもしれない。そこまで考えていると、促されるままに2人は前田医師と向かい合うように、ソファへと腰を掛けた。




