第41話
オレンジ色の付せんのページを開けると、また英語の羅列が続いていた。そろそろ英語は見飽きたが、そこで表題を見てみると、今度の論文の著者はアメリカの人らしい。
「そちらはアメリカのマサチューセッツ州にあるカバナー市にある私立の魔術系病院の医師が書いたものになります。この論文は、いわゆる魔術ドラッグと呼ばれる特殊魔術薬物を、特定の器官に集中して滞積するように魔術を実行させると、そこに対して長時間魔術粒子がとどまり続け、その効力を発揮することができるということを発見したとしています。そのうえで励起状態を継続して起こすことができれば、つまり御札のような形を維持することができさえすれば、これによって化学薬物との併用により、より多くの薬効を得ることができるとしています」
「つまりは、魔術粒子によって薬物をその場にとどまらせ続けるということですか」
そうです、と根来の言葉に根岸がうなづいた。
「これ、がんの治療に応用できますか。今噂になっているのが、魔術ドラッグを使えば、末期がんが治るという話なんですが……」
平塚が根岸に聞く。非常に話しにくそうな顔をしているので、さらに平塚が言葉を付け加えてる。
「いえ、話しにくいことでしたら結構なんですが……」
「分かっているのは、エビデンスはまだない、ということです。そのことを理解していただいてお話ししましょう」
エビデンスがないということは、証拠はないということだ。ただ、そうかもしれないという仮説はどうやらあるらしく、そのことについて根岸は聞いているらしい。
「どうやら、効果はあるらしいです。この論文をお見せしたのも、この技術の応用により、可能となるためです」
「魔術粒子と科学薬品の併用による治療ということですか」
「まさにその通りのことを行うことになります。二剤併用や三剤併用など、多剤併用による治療というのはいくつか類例があります。今回は科学薬同士の併用ではなく、魔術薬との併用ということで、やや薬の作用の見極めが困難になると推定されます。聞いたところでは、海外では治験が行われているという話でしたが、オーダーメイド薬になるため、成果は芳しくないということでした。それでも、この治験に賭けるような人が多いのは事実ですので、今もいい話が聞けないかと待っているところです」
「そうですか、つまり噂はほとんど真実だったということですね」
「実際は違うところもありますが、ええ、ほとんどは事実です」
末期がんに効くとなれば、その第一人者にも話を聞くべきなのかもしれない。そう思っていると、緒方へある人の名前が告げられた。
「以前はこの研究は北山鈴さんが国内でもトップにいたんですけど、最近話を聞かなくなりまして。研究に没頭する人でしたので、少し心配ですね」
「え、今、北山鈴て言いました?」
唐突の名前で、思わず緒方と放出が同時に声を出した。
「彼女をご存知ですか」
捜査情報にもかかわることが、ここは慎重に話を聞くしかないだろうと、緒方は言葉を選びつつ根岸に尋ねる。




