第34話
「ほらよ」
男が再び現れる10分ほどの間は暇で暇で仕方がなかった。しかし、袋に包まれた何かを投げてきたとき、その平穏は終わった。ベシッと地面に放物線を描いて落ちるそれは、何かの粉末が入った手のひらの半分くらいのチャック付きのビニール袋と、油紙に挟まれた数枚の紙。紙はどうやら御札のようだ。
「それをくれてやるからさっさと出ていけ。詮索はするなよ」
「ま、こちらはもらえるものもらえたらいいんだ」
緒方がそれを拾い上げ、カバンへと入れる。じゃあな、と手を振って帰ろうとすると、二度と来るな、と吐き捨てられ、男はコンクリートの向こう側へと降りた。緒方らは十分に離れてから、油紙の中を確認する。
「……やはり御札だな」
「それは想定内だが、この魔法陣、神経系に効くように指向されているな。ここまで露骨なのは初めて見る」
魔法が発動しないように細心の注意を払いつつ、緒方と平塚が内容を検める。
「どういうこと?」
根来が見ながら話しかける。
「御札というものの本質は、遅発性魔術というところにある。簡単に言えば、発動してから一定時間後かある動作をすることによって効果が出るようになる魔術だな。ここで問題になるのは、その魔術の対象が発動時にはわからないようにすることができるということだ」
「どういうこと、私も魔術は少ししか知らないけど、魔術の発動って意思とか相手とかが必須だって聞いたけど……」
放出が緒方と平塚に質問をする。
「一般的魔術発動条件によれば、十分な量の魔術粒子、魔術を行うという意志、魔術を行う魔術師、そして魔術の対象となる相手の4つが必須だとされるのは知っての通り。普通ならば、な」
「御札だけは例外だってことなのね」
「そういうことになる。なにせ魔術師がいないところで魔術を行おうとするときに必要なものなのだからな。トラップなんかで魔術を使う際には最適なわけだ。なにせ、見ただけではどうやって発動するかを隠すことが罠には必要だからな。そこで、御札を使う際には、発動対象を分かりやすくするということが暗黙のルールということになっている。戦時中でもない限りは、それでいいんだ。どうやったって、規制対象になるのが関の山だからな。実際、法律で規制がされているわけだが、違法ドラッグの類なんかは、その規制をかいくぐるために普段は何も害がないようにしておくんだ。じゃないと捕まっちまうからな」
緒方が説明をしていた。御札は再び油紙の中にしまわれ、その油紙自身に魔法陣を書き足して魔術粒子が励起しないように、つまり魔術が発動しないように細工を施した。
「だからここまではっきりと対象を表した魔術は珍しいていうことなのね」
「そういうこと。で、こっちの粉末の正体は分からないから、これは成分分析をしてもらわないと」
緒方は粉末とまとめてカバンへとしまうと、ゆっくりとした足取りで歩きだす。喧騒はすぐそこまで来ているが、方東組にたてついていきて帰ってきた4人を見て、その歩みを邪魔する者は誰もいなかった。




