第30話
しばらくして誰かがバリケードの向こうで何かのやり取りをしているようだった。やりとりの内容を魔術を使って聴こうとしたが、下に掘られている魔法陣のため、魔術は使えず、さらにいえば、平塚が変身することも拒んでいた。
「コレほど強力な魔法陣となると、禁忌官合格者が絡んでいるな」
「高性能な魔術ドラッグを作り出せるほどの人物だ。禁忌術にも長けていて当然だろうな」
緒方が平塚と話をする。禁忌術と呼ばれる魔術は、魔法全体の中でもごく一握りのものだ。概念としては、一地方に強大な影響を数十年規模で及ぼし続ける術、となるだろう。この禁忌術を用いることができる国家公認の者が禁忌官である。魔法関連を司る神秘省の高等官僚は、ほぼほぼ禁忌官としての採用を受けている。他の省庁でいうところの院卒向けの総合職といったところだろう。だが、国家公務員である以上、人数には制限がある。そこで、禁忌官の採用試験に合格した者を、あたかも資格に合格した者のように扱うという暗黙の了解があった。彼らもまた、口語では禁忌官と呼ばれることがある。
「莫大な魔術粒子がどこからきてるんだろう」
ふとした疑問を、放出がつぶやいた。これほどの術式を維持し続けるためにはそれこそ通常ではない量の魔術粒子が必要となる。
「あの中だな」
緒方はすでにそれを見抜いていた。コンクリートの防壁を指さすと、放出へと教える。
「この魔法陣の構成を見るに、天が使われているだろう。全体を支えるためには、毎日およそ3モルの魔術粒子を必要とする。毎日毎日入れ続けるのでなければ、あのコンクリートの中に入れておくのが一番効率的だ。だが推察だがな。魔術を封じられている以上、見ることもできん」
緒方が笑っている時で、平塚は何かを探している。
「お、これが目標だな」
そしてそれを探し当てたようだ。
「あったか」
「ああ。この術式の特徴を発見した。複合型だな。ここまで高度な魔法陣は見たことがない。是非ともうちにも欲しい人材だな」
狙いが分かれば次はそれがだれかだ。だがその前に向こう側の話し合いが終わったらしい。声をかけてきた。




