第3話
「そう、どこの団体か知らんが、そこまで丁寧なのも不思議だろう。裏書も発行年月日こそ書いてあるものの、どこで作られたっていうことは書かれていなかった。そこで魔術警吏研究所が調べた」
魔術警吏研究所は警吏庁の附置機関の一つであり、魔術関連の捜査についての研究や実験などに関することなどがその所掌事務となっている。全国の魔術捜査において困難な魔法や全国的に重要と判断された魔術など、さらには禁忌術に分類されるような新たな魔術が発見された場合、各都道府県の警吏区長や警吏小区長、さらに各区長や小区長によって指定されている警吏所の所長については、魔術警吏研究所へその協力の要請を行うことができる。ここ手野警吏所も大阪警吏区長から指定を受けている警吏所であるため、所長が直接要請することができた。その調査の報告書は、A4で3枚にまとめられていた。
「魔術警吏研究所によれば、この紙は一般的な木材チップからできているものらしい。使われているインクも、市販のプリンターのものだった。これらで犯人を特定することは困難だ」
「この御札の製造方法の特徴は、すでに調べておられるのでしょうか」
「ああ」
放出が所長へと確認のために言う。魔術や魔法を使うためには大きく3つの方法がある。呪文を詠唱したり思い浮かべたりする魔術構文。巨大あるいは小規模で一定の規則に則り描かれる魔法陣。そして今回のように、一般人であっても魔術を使うことができるように、紙に力を込めた御札の3つだ。御札は、簡単な魔術しかできないものの、それでも十分だという場面は多い。そこで使用頻度は最も多い。この冊子に書かれているのも、その御札の簡単な作り方だった。
「知っての通り、御札はその簡単さの反面、作るのがたやすいという問題もある。そこで国は特定の企業にしか御札の製造を認めていない。確認したところ、そのどこも関与を否定した」
それは当たり前でしょう、と平塚がつぶやくが、それは緒方の咳払いで所長まで聞こえることはなかった。
「そこで非合法の組織によるものと断定したという流れだな。このところ問題に上がっているうち、最も可能性が高いのが暴力団。魔術種族を抱き込んで、こんなことができるとすれば、日本最大の暴力団組織たる山菱組かその傘下組織であろう。そこで、大阪警視庁の警視総監から直々に指示が下り、合同捜査班を組織することとなった。この冊子はその足掛かりだろう」
「一応確認ですが、この御札を作ったらどうなったんですか」
緒方が所長へと質問する。
「魔術警吏研究所で安全に配慮して行ったものの、なにもなかったそうだ。単に紙にインクを垂らしただけだというのがその評価だったな。ただし、その後に書かれているものについては模擬実験によって立証された。作り方以外についてはしっかりと効果的なものになるらしい」
「では、私たちの任務は、この作った犯人を逮捕するということですか」
「そうだ。主目的はこの冊子の製造者を魔術刑法に則り逮捕すること。そしてさらに重要な目的はその密造業者を摘発することだ。その密造業者が一般人であれば警察の二人が、魔法種族であれば警吏の二人がそれぞれ逮捕をしなければならんからな」
警吏官と警察官はそれぞれ一般司法警察職員としての地位を有している。しかしながら警察庁と警吏庁それぞれの協定によって、現行犯を除いて、警吏官が逮捕することができるのは魔術種族のみ、警察官が逮捕することができるのは一般人のみと決められていた。そこで、それぞれが共同して犯罪を行っているとされる場合、このようにして共同捜査班を組織し、合同して犯人を逮捕するということが度々行われていた。
「ではさっそく捜査に入ります。部下はいるのでしょうか」
必要なことは聞けたと、緒方が所長へと冊子をそれぞれから集めて所長へ返しながら聞いた。
「正式な設置とはいえ、今は別件で忙しい。できるだけこの4人で捜査を行ってほしい。ただし、必要な援助は行う。また捜査については月曜と木曜に報告を行うこと。これを守ってほしい」
「了解いたしました。班長などについてはいかがしましょう」
「班長は緒方が、副班長は放出が、それぞれ就け。警察への報告が必要な場合は放出が行うこと。本件の捜査期間中は専従とし、ほかの事件については考えなくてもよい。他に質問は」
所長が4人に問うが、どうやらないようだ。
「では諸君の健闘を期待する。なお、部屋として第2庁舎3階305を予約してある。必要な物資は物品係に要請するように」
「はっ」
さすがという姿勢で、4人は敬礼を行った。そして与えられた任務を達成するために所長室から移動した。