第26話
「ぁりがとぅございましたー」
出ていくまでの間、コンビニに入ったのは緒方ら4人だけだった。それをどこかで見張っていたのだろう。金属バッドに何か銃器を見せびらかしつつ、4人に近づいてくる一団がいる。男ばかりの10人近く入るだろう。何らかの武装をしているのは間違いがない。
「おう、コンビニ入ったてことはよ、金、持ってるんだろ?」
「それに、外の金も、な」
どう控えめに見ても強盗である。だが、無法地帯となっているここでは単なる日常の一コマにすぎない。
「コンビニを襲った方が早いんじゃないか?」
緒方は強盗団に対して言うが、どうやらそれはしてはいけないことらしい。一応のルールといった感じではあるが、漠然となにかあるようだ。
「へぇ、やっぱし見た通り、ここは初めてらしいな」
「じゃあ、何か教えてくれないか。ちょいと野暮用で薬が必要なんだ」
強盗団のリーダーらしき人物が一歩前に出てきて、緒方らと対峙する。
「クスリ、ねぇ」
リーダーは両手をポケットに入れて何やらもぞもぞと動かしている。それが何かは緒方は分かっていたがあえて無視してみる。
「ま、俺らはよ、ヤクはしねぇからな。知らねぇな。そんな奴ら」
「そうか、なら用はないな」
歩き出そうとしてみる緒方に、リーダーは怒声を浴びせる。何を言っているか分からないような声は、それにあわせて団員らが動き出した。
「……邪魔をするな」
凄む、しかし、ややも後退りながらもさすがはここまでくるリーダー。それでも当初の目的を果たそうとして全員がそれぞれに武器を持ち、4人をコンビニの壁に追い詰めつつ、半円状になるようにして逃げ道をふさぐ。やる気だと分かると、ため息をついて緒方は残り3人へと聞いた。
「やれるか」
「もちろん」
それが答えだった。瞬間、強盗団はその武器を振りかざしつつ向かってくる。初手は緒方へと向かい、バールのようなものを振り回すが、大きく振ると同時にしゃがみ込む緒方の頭上を空振りするに終わった。
そして緒方の反撃。バールのようなものを持つ手元をねじり、襲ってくる力そのままに投げ飛ばす。ついでに魔術をかけ、3メートルほど離れたところにたたきつけるようにした。パッと消えて、その力そのままにブンと遠くへ飛ばされるのを見て、一瞬ひるむ。飛ばされた男は荒い息をして仰向けになったまま動けないようだ。
「もしも通さぬのであれば、そして私たちの質問に答えなければ、貴様らはあの男と同じか、より悪い状況へと陥ることだろう」
一罰百戒ではないが、緒方は一つの行為で全体を一瞬で掌握した。そのうえでさらに言葉をつなぐ。
「では、尋ねよう。魔術ドラッグを作っている人を知らんか」
「あんたが何者かは知らんが、あれか、あんたも依頼者か何かに言われてきたんか」
リーダーは交戦意思をなくしたらしいようで、部下にいって吹き飛ばされた男の介抱に向かわせると同時にそんなことを言った。
「なんのことだ」
緒方がそのまま聞く。リーダーは少し考えて聞いた話なんだが、と断りを入れたうえで尋ねる。
「どこかの実験で魔術ドラッグの一部で末期がんに極めて有効な特効薬となると分かったらしいんだ。もっとも、治験もまだで、これもたまたまラットか何かの研究のタイミングで分かったことらしいんだが。あんたもその口か」
「まあ、そんなものだ。事情までは知らされていなかったがな。で、どこで手に入る」
「ここに来たってことは目星は付いてるだろ。あそこだ」
指さすのは、10階建てくらいのビルダ。この負犬地区で最も高い建物で、全体を見回せれるようにほとんど地区の中心に建てられている。地区全体の畏怖の存在、最高権力、全体の統治者。隠語は数多くあるが、それを示しているのはただ一つの組織だ。
「……方東組か」
「そうだ。あそこに魔術ドラッグの、ガンに聞くていう噂の魔術ドラッグを初めて作って、今も作っている製作者の集団がいるていう話だ。名前までは知らんぞ。だが、ここでそういうことができる勢力と言えば、あそこしかいないからな」
「だろうな」
そういって緒方は財布を取り出し、札をつまみ上げてりだーへと手渡す。
「なんだこれは」
リーダーが言う目の前で、半円の欠けたところから悠々と歩いて緒方が出ていく。
「俺の信条でな、『有益な者には褒美を。無益な者には懲罰を』。お前は今は役に立った。もっとも、これが嘘だとわかったら罰を与えに現れるから気を付けろよ」
緒方が言う裏で、3人はゆっくりと緒方についていった。




