第23話
扉を出ると銀行のような風貌の部屋があった。アメリカにでもありそうな、格子戸越しでしかやりとりができないような構造になっており、格子戸以外のところはガラスか、あるいはアクリル板のような透明な板で完全に仕切られている。格子戸は全部で5つあり、それぞれにラフな格好をした係員が座っていた。
「店長、準備はできています」
「よし、じゃあ後は頼んだぞ」
梁塵はここでは店長と呼ばれているらしい。
「一行が不便しない金額を支給してやってくれ。あとは適当にするだろう」
梁塵が行ってきた店員に伝えて、それから店長と書かれたプレートの後ろにある、黒革で作られた椅子に腰掛けた。
「こちらへ。まずは口座を作っていただきます。口座は3種類、外でいうところの、普通預金口座、当座預金口座、そして定期預金口座になります。ちなみに、当座預金あるいは定期預金の口座を作成するともれなく普通預金口座も同時に作成されます。普通預金の場合は、別に申請をすることによって、当座預金あるいは定期預金、もしくはその両方が作成されます」
「いや、普通預金だけでいい。それと、両替も頼めるか」
さっさと済ませたいらしく、緒方は店員にすぐに指示をした。お金自身は梁塵からあらかじめ受け取っていたものがあったので、それを元手にして口座開設のための資金とする。
「はい、承りました」
4人分の口座を作成すると、通帳を発行してくれる。
「あれ、身分証とかはいらないの?」
「身分証がない方も多くおりますので。この通帳があれば、誰でも引き出し、振込を行うことができるようになっています。なので、カードの類もなし、本当に、この冊子タイプの通帳の身が、あなた方がここに口座を開設したという証拠になります。なくされますと引き出し、振込は不可となり、全て当行が徴収します。また、1年以上動きがない口座についても、閉鎖口座とされ、一切の手続きが不可能となります。さらに、この通帳については再発行はできません。代わりに1人でいくらでも口座を作成することができます。手数料は取りませんが、他の金融機関とやり取りすることはできません」
通帳を受け取りつつ、4人はこの銀行についての説明を受ける。そもそも銀行とだけしか呼ばれていないが、負犬地区では銀行と呼べるような金融機関はここしかないため、それでも十分なのだという。手数料がないが、銀行でできるものといえば預金を預けることぐらいで、利息すらほぼないらしい。一応の利息らしいものはあるそうなのだが、それも銀行側の気まぐれであっさりとなくなることもあるそうだ。また通帳記入は全て手書きであるため、見間違いで、という理由で減ったり増えたりすることもあるらしい。だが、それらも含めて一切の異議申し立ては認められないということだ。
「………では。ようこそ、当行は貴方方を歓迎いたします」
通帳に最低口座開設金額の1000KATが振り込まれていることを、行員は確認するように告げ、4人とは別れることとなった。緒方らは通帳をもらいたてのカバンに入れ、あるいはポケットにしまい、銀行の建物から一歩外へと出た。




