第21話
「しかし、どうして梁塵はこの街に」
ふと、マジックテープ式の財布を見比べている緒方が、壁際でもたれて4人の動きを見ていた梁塵に尋ねた。
「……昔ね、ある組織にいたのさ。その組織ってのも、まあ中堅ぐらいの会社のようなもので、当時右も左も知らなかった私を育ててくれたのさ。小学校か中学校くらいの頃の話さね。でも、高校2年、忘れもしない、10月13日。その組織は襲撃を受けた。血で血を争うような『10月13日の大戦争』の始まり」
「それって、暴力団の話じゃなかった?どこかの本で読んだんだけど」
話を聞いてた放出が梁塵に聞いた。10月13日の大戦争と呼ばれるものは、とある暴力団同士の大抗争で、最初は鉄砲玉がて機関部を射殺したことだった。それが報復合戦へと変化していき、最終的に、抗争終結までの7年間に組長クラスが6名、幹部クラスが44名、その他構成員が数十名から100名超という死者を出し、日本のみならず世界にも波及した、歴史に刻まれるべき抗争だ。そのきっかけが10月13日の一発の銃弾であったことからこの名前が付いたとされる。
「まさにそれよ、私はその場にいたの。最初の一発、私の育ての親が殺される現場を、私はこの目で見た。敵から追われ、見方からも逃がされ、流れ着いたのはこの街。ま、正確にいえば情報屋のところだったんだけどね。そこで情報屋と協定を結ぶことで、私は生きながらえることができた。その協定が、この街の中での話を情報屋に教える代わりに、情報屋からは資金や必要な物資の供給を受けること。この街で暮らす代わりに、この街に来たい人の最初の説明をすることてところね」
「それで、梁塵て名乗るようにした、というところか」
平塚はというと、帽子を手にとってはかぶり、それを気に入らないようで外すことを繰り返していた。それをしながらも、梁塵の話を聞いていたようだ。
「私に残されているものといえば体だけだからね。みんなに私の声を提供して、楽しませることにしたの。それで芸名をつける時につけた名前が梁塵だったということ。あまりに美しい歌声で、梁の塵すら動いたという話から、ね」
「その名付け親は情報屋か」
「大正解」
梁塵はそう言って笑っていた。




