第144話
「それって、私の母も対象になってる?」
少しの期待をもって、北山が聞いた。
しかし、岸本は少し首を左右に振った。
「残念だけど。私だって対象だったらどれだけよかったか」
「……ともかく話は終わりだ。北山、逮捕させてもらうぞ」
治療も終わったようで、物理治療だけであったが止血もしっかりできていて、なおかつ多少の痛みは伴うものの動けるほどに回復しているようだ。
「ごめんね警吏さん。私はね、行かないといけないの」
座っていた台からひょいと飛び降りると、緒方へと向き直る。
「病院の敷地内は魔術用の結界が貼られているはずだ。使うことはできんだろ」
「あれ、知らないんだ」
キャハハと緒方へと北山は緒方へと笑う。
「この霊安室、地下にあって誰も来ないからここを私の治療のために選んだって思ってるのなら、まだまだ勉強不足だね」
「なんだと?」
緒方が疑問に思うのも無理はない、まさに図星を突かれたからだ。
「交霊術ってのはよく知ってると思うけど、あれも魔術の一種だよね。ここは遺族の人らが故人と最後のお別れをするところ。だからここは病院の中では唯一、魔術が公式で使えるようになっている場所なのっ」
タンと足をそろえてその場で宙返りをして見せると、北山は霧のようにその姿を消した。
とたん、緒方は銃を降ろして電話がかかってきたのを確認する。
「緒方さん、北山が、突然空中から現れて、母親の病室に向かいました」
「すぐに押さえろ。俺もすぐに向かう」
魔術が使えないとわかっていたからこそ、緒方は御札を使って無理やり魔術を使って移動することができるポイントを作った。
しかし、こうして出発点が魔術が使用可能であれば、無理やりにではあるが魔術が使えない地域であっても魔術で瞬間移動することは可能である。
いま北山がやって見せたのはまさにそれだった。
「急ぎますよ、ピッチに山ほど連絡が来ていると思いますが、北山の母親が危篤に陥りました。我々もすぐに向かいます」
「分かりました」
緒方に続いて岸本もすぐに走り出してエレベーターへと向かった。




