第14話
「ほらよ、土産だ」
緒方が買ってきた焼き菓子詰め合わせギフトセットを紙袋のままカウンターの上へ置く。中身の缶が、ガタンと音を鳴らして、そのまま鎮座した。
「土産があるということは、公式捜査か」
「そんなところだ。協力するかしないか、じゃなくて協力してもらうからな」
「これが、その土産ってことだな」
緒方の言葉を聞いているか聞いていないのか。情報屋は紙袋をガサガサと開けて、中身を確認していた。横ではアルバイトといっていた少女も、興味津々で中を覗こうとしていた。
「手野駅前、パティスリーバイウス、4000円の焼き菓子詰め合わせだな」
缶の蓋を開けた瞬間に、情報屋はピタリと言い当てて見せた。
「……ご名答」
「だろうと思った」
横で、食べて良い?とせがんでくる、まるで子犬のような少女に、全部一緒くたにして渡すと、さっき渡したコップと一緒に、情報屋が出てきた扉から中へと戻っていった。
「さてさて、君らは初めて会うね。その姿から行くと、警吏官か、あるいは警察官か。公式だというけど、これまで見たことがないところから考えると、警察官の方かな。魔法も使えないみたいだし」
笑っているが、見るべきところは見ているようだ。攻撃を仕掛けてくるか、それとも敵か、味方か。味方としても武器を持っているかなどなど。こういう用心が、この家業では必須なのだろう。
「そもそも、この空間で魔術は使えんだろう。そこここに魔術封じの御札が張り付けられているからな」
「さすが、何度もこの店に来店されているだけはある」
ニンマリとしているが、確かによく見ると緒方の言う通りで、あちこちに紙が張り付けられている。特に床にも1枚あり、はがれないようにラミネート加工までされていた。
「ここを攻撃する方々は数多くおりますからね。そのための予防ですよ。私は一般人で魔術なんて使えませんからね。それに、何事にも用心は越したことはございません」
「……言っとけ。じゃあ本題に入るぞ」
「ええ、魔術ドラッグについて、でしょうか」
どうして知っているという顔つきの緒方以外の3人と、知っていて当然だと言わんばかりにため息のような息を吐く緒方。それを見ていておやおや、といいそうな顔をしているのが情報屋だった。
「知っていたな」
「ええ、警吏官の中にもお金に困ってらっしゃる方はいるようですね。私との世間話のさなか、話していただきましたよ」
「なら話は省こう。知っていることを教えてくれないか」
「ええ、いいですとも。良いお土産もいただきましたしね」
どうやら彼女は別室でもう土産を食べているようだ。どうしてか知ったそのことを、情報屋に聞いてみたかったが、さらなる何かを要求されそうなので、緒方らはそれを我慢した。




