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第1話

「待たんかっ」

 暗い路地裏、男の叫ぶ声が聞こえる。声はわずかに撓み、昨日の昼過ぎから降り続く小雨に吸われて消えた。バシャン、バシャンと追われる者は、水たまりを踏み付けつつも走って逃げる。追いかける者は、先が見えにくい道の中、追われる者の先回りをしようと口の中で呪文を唱える。

 途端、風が吹き、その呪文の効果を打ち消す。向くと、追いかけている相手は、フードに手をやり男を見て、にやっと笑っているように見えた。

「……ちっ」

 やはりか、男はそう思いつつも次なる準備をする。手に取ったのはスマホだ。ホームボタンに親指を押し当て、ロックを解除するなり叫ぶ。

「今だっ」

 ブーンと羽虫のような音が聞こえる。それは男の後ろから聞こえ、路地裏を通り抜けていく。一瞬、黒いん愛化が見えるが、目にもとまらぬ速さで見えなくなる。そして追いかけられている者のところへとたどり着くと、人型が現れた。

「チェックメイト」

 ポン、とフードを剥ぎ、模様が描かれた紙を額へと押し当てる。膝からその者は崩れ落ち、そのまま雨に濡れるに任された。

「これで君は魔法も魔術を使えなくなった。君を逮捕する」

「はっ、理由は」

 フードの下は女性だった。魔法も魔術も使えないからといって、逃げ出そうとする意志は固い。路地裏を隅々まで目で走査するが、そこへようやく追いついた。

「麻薬及び向精神薬取締法第64条の4、ジアセチルモルヒネ等と同様の魔術効果を取り入れ、第64条の行為を行った者は、同様に罰する。要は、モルヒネと同じ効果を持つ魔術ドラッグを輸入したり輸出したり作ったりしたら取り締まるってことだ」

「お前ら、警吏官か」

 女はようやく気付いたようだ。

「そうだよ。というよりも、こいつを見ればわかるだろう」

 ふう、やれやれとため息をつきつつ、女に銃のようなものを警吏官と呼ばれた男は付きつけつつ、立たせた。額に押し当てた紙は濡れているが、まだ効果は継続しているらしい。

「2231(ふたふたさんひと)、通常逮捕執行。麻薬取締法違反の疑いで、飾西(しきさい)あづさ、逮捕する。あなたには黙秘権があり……」

 スマホで音声を録音しつつ、女に向かって権利告知を言い続ける。

 路地裏を抜けると、パトカーが何台も待ち構えていた。そこから警官の服装をした人らが飾西を引き取る。

緒方正史(おがたまさし)警吏官員、平塚沢辺(ひらつかさわべ)警吏官員。被疑者逮捕、お疲れ様です」

「おう、お疲れ」

 警官が敬礼し二人を出迎えてくれる。警吏官は魔法犯罪に対応するための警察官で、その階級は上から警吏総監、警吏監、警吏長、警吏正、警吏、警吏官員、警吏区長、警吏院長、警吏員、警吏補と定められている。警吏官員は警察でいうところの警部や警部補に相当する階級である。一方の出迎えた方は警察の職員らしく、巡査部長の階級章を肩につけている。

「おや、警察が持っていくのかい」

「魔術関連の罪もあるのですが、それ以外にも一般刑法の罪も数多く犯しているらしいので。刑法の捜査が終わり次第、魔術の罪の捜査になるようです」

「そうなのか。まあ、あれぐらいになるとそうなるだろうな」

 パトカーに乗せられているのをのんびりと眺めていると、平塚の携帯が鳴る。手に取ってみると、平塚は冷静な顔から嫌そうな表情に変わる。

「おやっさんからか」

「……ああ、すぐに戻ってこいだと」

 はぁ、休憩もなしかぁ。というため息は、ようやく止んだ曇り空に、靄のように漂った。

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