海の向こう側で
施設には窓がない。人工の太陽を設置した室内広場があるだけで、外にも出られないし自然に触れることはできなかった。
逃げ出した時、外の空気に触れ太陽光を浴びても感動したが、この海はすごい。なんて、広大で美しいんだ。
「この海の先に、大陸がある」
「え?」
「人々が暮らす大陸だ。しかし、我々とは違う人類だ」
「・・・違うって?」
「転生しないんだ。いや、正確には転生しているとしても、強くはなったりはしない」
「そんなことって!」
ありえない。この世界の常識は、魂は転生し磨かれる。全人類だ。それが、施設内の嘘・・・?
「この海の向こう側では、命はとても大切にされている。人が死ねば大いに悲しみ、人を殺せば罰せられる。全然、施設の話と違うだろう?」
ふっと、Jは笑った。皮肉っぽい笑顔だが、固かった表情が和らいでなんとなく嬉しかった。
「Jは、何故そんなことを知ってるの?」
「今俺は、この海の向こう側で暮らしてるんだ」
「え!」
「一日一回、ここに物資を届けに船がやってくる。それに潜り込んで移動する」
Jは、眩しそうに目を細めて地平線を見つめていた。
「Kも行こう。あっち側はとても美しい、真実の世界がある」
「私の、望むものがあるの?」
「ああ。全力で生き抜く人々の中で、君も全力で生きられるよ」
「・・・なんだか泣けてきちゃった」
「君は泣き虫だな」
Jが笑い、私も泣きながら笑った。
人の生きる道を想う。痛みも苦しみもきっと愛しい。笑いながら全力で駆け抜ける自分を想像して、力が湧いてきてしまう。私はまだまだ、転生したくないのだ。