海
洞窟を抜け、山を下りた。
「追っ手はこないみたいね」
私は辺りをしきりに確認し、警戒を怠っていなかった。
「もうこないさ」
「どうしてわかるの?」
「やつらは逃げたものを最初は追うが、山を下りてしまったら諦めるようだ」
「え、本当に?」
「ああ。どうせ飢え死んだら魂は帰ってくる。だからだろう」
「そう・・・」
山を下りてから1時間ほど歩いただろうか。まだ辺りは森林だ。
「街はまだかしら」
「この島にそんなものはない」
「え、島?私たちは大陸だと聞かされているのよ。施設の外には立派な文明ができていて、魂を最上まで磨いた者たちだけが住める都があると」
「そしてこう聞かされているだろ?魂が未熟なまま転生したら、必ずこの施設に産まれるように世界はなっていると」
「え、ええ。最上まで磨かれば街の子供たちとして産まれることができるから、頑張りなさいと聞かされてきたわ」
「俺もそうだ。しかし、俺は施設を抜け出してから恐らく一年探索を続けたが、ここは島だし街もない」
「そんな・・・」
今まで信じて疑わなかったことが、覆されていく。足元が崩れていく感覚がした。
「すべては洗脳なんだよ」
森林を抜け、ひらけた場所にでた。なんだか独特な香りが鼻をくすぐっている。
もう少し歩くと、かすかに音が聞こえた。ざばん、というような豪快な音。
途端に、キラキラと視界が輝いた。
「これは・・・」
地平線まで続く、広大な水たまり。
本で読んだことがある。
「これが海だ」
「海・・・」
その大きなエネルギーに、体も頭もしばらく停止してしまった。