涙
洞窟の中は広く、長い道が続いていた。
「Kは、どうして施設を抜け出した」
質問は反響する。濡れた地面は足音を湿らせた。私はひと呼吸置いた後、口を開いた。
「生きたいと思うのは、おかしなことなのかしら」
「毎日のように聞かされていただろう。死ぬのは素晴らしいことだと」
「・・・そうね」
「今できないことも、転生すればできるようになる。もっと強くなり、魂は輝き、貴方達は絶対的な存在になれる。そう物心がついた時から、何度も、何度も、何度も聞かされたはずだ」
「ええ。それが、やっぱり素晴らしいことなんでしょうね・・・」
今までの疲れが、心にきてるのだろうか。言葉を出そうとするたびに、体が震え、喉が熱くなる。涙で視界が歪んだ。
「私は、生きたい・・・!!この体でもっといろんなものに触れて、この頭でもっといろんなことを考えたい。笑って、泣いて、怒って、どんな辛いこともどんな楽しいことも、この私で、私自身で、体感したいの・・・!!それが間違っているって言うの!?」
金切り声が、洞窟に響いた。Jは静かに答える。
「間違っていない」
洞窟の奥から、光が差し込んでいる。涙でキラキラと輝いて見えた。
「俺は、世界の外を見た。」
「世界の、外・・・?」
「今まで、俺たちが世界の真実だと教えられてきたものは、全て嘘だった」
「嘘って・・・」
「涙を拭け。教えてやる」
服の袖でゴシゴシと涙と鼻水を拭き、また歩きだしたJの背中を追って一歩を踏み出した。