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第4話 三人目との出会い

三人目のヒロインの登場です。

 

 図書委員の顔合わせと大掃除が終わった冬真と夕光は、クラスに戻ると一斉に視線が向けられた。クラスメイト達は既に終わらせて自由時間を過ごしていたようだ。男子からの嫉妬と殺意の視線を無視して冬真は席に着く。


「お疲れさん!」

「どうも。疲れてないけどな」


 龍也が労ってきた。ニヤニヤと笑みを浮かべながら冬真を見てくる。今回の笑みはウザイ。なぜだがイラッとする。


「どうだったか? 夕光ちゃんとのデートは」

「何がデートだ! ただの掃除だ」


 彼女のほうを見ると、男子に囲まれていて姿が見えない。男子は欲にまみれた、いやらしい視線を向けながら夕光に話しかけている。彼女も大変そうだ。


「あ~あ。あんな風に話しかけても意味ないだろうに。絶対嫌がられてるぞ、あれ」

「だろうな」


 冬真と龍也は夕光に同情する。


「で、龍。お前はいいのか? 女子がチラチラと見てるぞ」


 女子たちがチラチラと龍也に熱い視線を向けている。


「いいんだよ。俺の好みじゃないし。それになんだか背筋が凍るような視線もあるんだが。気のせいか?」

「気のせいじゃないな」


 同じような視線を冬真も感じている。顔を突き合わせて話す二人に、熱い視線が注がれる。


「絶対腐ってるよな」

「腐ってるな」

「俺たちも腐道に進むか?」

「やめろ! 気持ち悪い。それに龍は朱莉(あかり)さん一筋だろ」


 朱莉とは冬真と龍也の二つ年上の幼馴染のような女性だ。幼稚園からの知り合いで、彼女は今大学生だ。龍也は昔からお姉さん的存在の朱莉に恋をしている。朱莉も龍也に恋をしていて、冬真は二人から相談を受け仲介しているがなかなか二人はくっつかない。


「はよ告れ! 今月から大学生なんだろ。盗られても知らんぞ」

「うぅ…だって」

「キモイ!」


 恥じらう乙女のようにモジモジとする龍也の頭を強く叩く。この男は肝心なところでヘタレるのだ。

 キャーと腐の歓声をあげる女子のことは知らないふりをする。


「痛ってぇなぁ。少しは加減しろ」

「うるさい。何年も前から俺に相談してくる癖に肝心なところでヘタレやがって。朱莉さん、今度の日曜日の昼に和水に食べに来るらしいぞ」

「行く! 何があっても行くからな!」

「はいよ。朱莉さんと待ち合わせして店に来い」


 そうする、と言って早速スマホを取り出し朱莉に連絡を取り始める。こういう所は積極的だ。

 はぁ、と冬真はため息をついた。



 ▼▼▼



 今日の学校が終わった。明日は基本的に休みだ。入学式に出席する三年生と、入学式後に部活勧誘する一二年生以外は学校に来なくていい。

 冬真は明日から、春日と胡蝶の家の住み込みのバイトを始めることになっている。父に連絡したら即座に了承された。春日にも連絡を取り、冬真をお願いするよう頼んだらしい。

 準備は終わっているが、家に帰ったら再び確認しようと考えていると、教室から出る際に担任教師の声が聞こえてきた。


「初日なのにもうゴミ箱がいっぱいだな」


 冬真は立ち止まり担任に話しかける。


「俺が帰るついでに捨ててきましょうか?」

「ん? 伊勢か。頼んでいいか?」

「はい」


 ゴミ箱から袋いっぱいのゴミを取り出し袋を結ぶ。お願いな、と頼まれて冬真はゴミ袋を持って教室を出た。この高校のゴミ置き場は外にある。靴を履いて外に出なければならないのだ。

 靴箱で室内靴から靴に履き替え、ゴミ置き場へ向かう。ゴミ置き場は体育館の裏にある。ゴミ袋を持ってゆっくりと体育館裏へ歩いていく。パイプ椅子がきれいに並べられた体育館内を眺めながら歩き、角を曲がって裏へ回ると、そこには先客がいた。

 男子生徒と女子生徒の二人だ。男子は顔を赤くしながら物凄く緊張している。女子生徒はクールな表情で、少し迷惑そうな雰囲気を感じる。

 冬真は咄嗟に体育館を陰に隠れた。冬真の耳に声が聞こえてくる。


「さ、桜ノ宮さん。来てくれてありがとう」

「それで? 用って何かしら?」

「あの…」


 言い淀んだ男子生徒は勢いよく頭を下げて、右手を差し出す。


「ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってくださぁい!」


 あまりの大声に周囲にいる生徒にも聞こえていただろう。ちらほらと見える生徒たちが体育館裏に視線をよせる。

 告白された女子生徒はため息をつきそうな声で男子生徒に言った。


「ごめんなさい。私は誰とも付き合う気はないわ」

「なんでですか!?」

「付き合う気がないからよ」


 女子生徒は男子生徒を冷たく突き放す。フラれたショックで少し涙を浮かべた男子生徒は何としてでも縋りつこうとする。


「せめて、お友達からでも!」

「友達になるのは構わないけれど、あなたと付き合う気は全くないわ」


 興味ない、という冷たい雰囲気を醸し出している。

 連絡先を教えてください、と男子生徒は頼み込むが女子生徒は冷たくはっきりと拒絶する。心に深刻なダメージを負った男子生徒はトボトボと冬真とは反対方向へとゆっくりと消えていった。

 女子生徒はそのまま立ちすくんだままだ。


「そろそろ出てきたらどうなの、覗き魔さん?」


 突然声を上げる女子生徒に冬真は少しビクッとするが、他にも覗いていた人がいるのかな、と呑気に考える。チラッと体育館の陰から女子生徒を覗き込むと、彼女と視線が合った。

 覗き魔というのはどうやら冬真のことらしい。


「今、目が合ったわね。隠れてないで出てきなさい」


 渋々冬真は少女の前に出て行く。覗きをしていたわけではなく、単にゴミ置き場の前で行われている告白シーンを邪魔しないように気を遣っただけだ。

 少女はクールな目つきで冬真のことを睨んでくる。


「なぜ覗いていたのかしら? 覗き魔の後輩くん」


 冬真の襟もとのクラス証を一瞥し、素っ気なく聞いてくる。


「わざと覗いたわけではないですよ。ゴミを捨てに来ただけです」


 冬真は手に持っているゴミ袋をアピールする。


「気を遣って告白が終わるまで待ってました」

「そう」


 女子生徒は少し疲れたかのように、はぁ、と深く息を吐いた。冬真は気にせず、ゴミ置き場の扉を開きゴミを投げ入れる。


「小説では体育館裏は告白スポットですが、この高校はゴミ置き場がありますからね。ゴミ置き場の前で告白とか、先輩も大変ですね」

「そうね。私も女の子だから、もう少し考えて欲しいわ」


 はぁ、と今度は盛大にため息をつく。ゴミ置き場の前で告白されて嬉しがる女の子はいないだろう。冬真はこの疲れている先輩に同情する。


「やっぱり覗き魔の後輩くんも私のことを知っているのね」

「覗き魔は止めてください。二年の伊勢冬真です。桜ノ宮先輩で合ってますよね? 俺は今日先輩のことを知りましたよ」

「そうよ。私は桜ノ宮朝光。三年よ。でも、今日私を知ったってどういうこと?」

「先輩の妹さんの夕光さんと同じクラスになりまして。恥ずかしながら先輩のことも夕光さんのことも今朝親友に教えてもらったんです」

「へぇ。夕光ちゃんと同じクラスなの。人の妹を名前呼びとは良い度胸ね」


 綺麗な笑顔で冬真を睨みつけてくる。朝光の背後に般若が見える気がする。冬真の背筋に冷や汗が流れる。


「同じ委員会になったら、名前で呼ぶように、と彼女から笑顔で脅されました」

「あの夕光ちゃんがねぇ…ふ~ん…」


 品定めするように冬真のことをじっくりと眺めてくる。朝光のパッチリと大きな瞳に見つめられて冬真は恥ずかしくなる。彼女からの視線から逃れようと視線を彷徨わせるが、妹二人とは違った豊満な体が目に入り、必死で横を向いて彼女を視界から外す。朝光の体から花のような香りが漂ってくる。甘くて心地よい香りだ。


「ふむ。夕光ちゃんが認めたなら、私のことを朝光先輩と呼ばせてあげる」

「はい?」


 耳に入ってきた言葉が理解できず、冬真は思わず聞き返した。


「私のことを朝光先輩と呼びなさい」

「いやでも…」

「朝光先輩と呼びなさい」

「ですが」

「呼べ」

「はい…朝光先輩」


 般若を浮かべて命令してきた朝光に冬真は素直に従った。流石姉妹だ。説得の仕方が妹二人と似ている。


「よろしい。君は伊勢冬真だったわよね」


 冬真は頷く。朝光は急に手を伸ばし、冬真の前髪をかきあげる。冬真は突然のことに理解ができず、硬直して動けない。


「ふむ。君の顔は覚えたわ」


 あっさりと手を離すと朝光は歩き去っていく。冬真は呆然と彼女の後姿を見送る。

 体育館の角を曲がり、姿が消え去る前に朝光が冬真のほうに振り返った。


「何かあったらこき使ってあげるから。覚悟してよね! 覗き魔の後輩くん♡」


 ウィンクを残し、朝光の姿が消え去った。体育館裏には呆然と立ち尽くす冬真だけが残された。

 あの笑顔とウィンクは反則だろ!

 クールな雰囲気から一変させて、妹二人に似た可愛い笑顔とウィンクが、冬真の頭からしばらく離れなかった。

 これから彼女、いや彼女たちに振り回される、冬真はそんな気がした。


お読みいただきありがとうございました。


次の話ができるまでしばらくお待ちください。

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